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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年4月17日 No.3680 産業競争力強化に資する気候変動対策 -環境委員会地球環境部会

野村氏

経団連は3月24日、東京・大手町の経団連会館で環境委員会地球環境部会(船越弘文部会長)を開催した。慶應義塾大学産業研究所の野村浩二所長から、産業競争力強化と両立する気候変動対策に向けた課題と方向性をテーマに説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 二つの前提条件

気候変動緩和策が産業競争力の維持・強化に資するためには、「技術」と「制度」という二つの前提条件が不可欠である。すなわち、技術面ではコスト競争力のある脱炭素技術の開発が、制度面では国際的な調和が求められる。いずれかが欠ければ、脱炭素化政策は実効性を持たず、中長期的には産業空洞化や広範囲な生産性低下を引き起こしかねない。

脱炭素化に向けた金融支援に期待する向きもあるが、仮に資金調達コストが低下しても、資本生産性が低下し、エネルギー価格が高止まりすれば、その効果は限定的である。一方で、例えば化石燃料からのダイベストメント(投資引き揚げ)が起きれば、企業の資金調達コストを引き上げ、国全体の価格競争力を大きく押し下げるリスクがある。

■ 日本のエネルギーコスト

実際、世界の再生可能エネルギー投資の収益率は2021年をピークに下落する一方、化石燃料の収益率は高水準を維持している。金融市場ではグリーン投資の有効性の減退は観察できるが、環境・エネルギー政策による経済影響は把握し難い。そこで、環境対策推進財団の助成を得て、エネルギーコスト・モニタリング(ECM)を構築した。これにより、主要国のエネルギーコスト負担の格差構造と産業空洞化を月次ベースで可視化し、リアルタイムで政策効果を把握できる。

特に、エネルギーの実質的な内外価格差を評価する「実質エネルギー価格水準指数」を見ると、日本のエネルギー内外価格差は戦後のピークに近い状況であり、これ以上のエネルギー負担増は家計も産業も受容できない。エネルギー価格の3割抑制を目指す政策への転換が求められる。

■ 日独経済比較

日本と類似する産業構造を持つドイツとのマクロ経済を比較すると、ドイツは2期連続のマイナス成長である一方、日本は一進一退の状況である。エネルギー多消費型産業に注目すると、両国に共通して生産量の大幅減が見られる。日本では鉄鋼業を中心に、ドイツでは化学業を中心に、減退傾向が顕著である。特に日本では、エネルギー内外価格差の拡大に加え、環境規制などの非価格要因が空洞化を促している可能性が大きい。

■ カーボンプライシング

日本でカーボンプライシングが機能する条件として、(1)既存エネルギー課税の見直しと国際水準への連動(2)炭素税収の使途の効率化(3)複雑化した環境規制の簡素化――が求められる。これらを通じ、価格要因のみならず非価格要因による産業空洞化を引き起こさないことが重要である。

【環境エネルギー本部】

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