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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年5月29日 No.3684 農林水産分野における衛星データの利活用 -宇宙開発利用推進委員会宇宙利用部会

齊賀氏

経団連は4月8日、東京・大手町の経団連会館で宇宙開発利用推進委員会宇宙利用部会(山品正勝部会長)を開催した。農林水産省大臣官房政策課の齊賀大昌技術政策室長から、農林水産分野における衛星データ利活用に関する課題等について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 農水省における主な衛星データ活用事例と関連予算

農水省では、大きく次の4分野で衛星データを活用している。

1.農業=衛星データを活用したスマート農業

衛星測位技術による農機の無人自動運転化、衛星リモートセンシングを活用した作物の生育管理、可変施肥による作業負担軽減と収量増加等。

2.行政=衛星技術を活用した農林水産行政の効率化

衛星画像を利用したデジタル地図(eMAFF地図)による、地方自治体の現地確認等の農地関連業務の効率化・省力化等。

3.林業=林業機械の自動化、森林資源・境界管理の効率化

衛星測位技術等を用いた林業機械の自動化、衛星画像や森林GISの整備・活用による効率的な森林整備、衛星技術を活用した山地災害把握等。

4.水産業=沖合・遠洋漁船への漁海況情報の提供、漁業取り締まり

人工衛星、漁船等からのデータを基にした高精度の水温図等の漁場探索に役立つ各種海洋データの提供、衛星船位測定送信機(VMS)の活用による違反操業の防止等。

また、2024年6月に閣議決定された宇宙基本計画において、スマート農林水産業技術の開発・実証・実装を一層推進し、農林水産業の生産現場における担い手の減少や高齢化による労働力不足等の課題解決を図ることとしている。このための宇宙関連予算として、農水省において、令和6年度補正予算に約29億円、令和7年度当初予算に約45億円を計上している。

■ スマート農業技術活用促進法

農業者の減少等の環境変化に対応して生産性向上を図る。このため、「スマート農業技術活用促進法」において、スマート農業技術の活用とこれと併せて行う農産物の新たな生産方式の導入に関する「生産方式革新実施計画」ならびに、スマート農業技術等の開発とその成果の普及に関する「開発供給実施計画」における認定制度を設け、計画認定者を支援している。

「生産方式革新実施計画」では、衛星画像を基に圃場の状況をAIで分析し、複数生産者へのデータ共有を通じて生産を予測する取り組みや、生育状況に応じて農薬の量を調整する可変施肥による生産性向上の取り組みなど、衛星データを利用した取り組みを支援している。

「開発供給実施計画」では、AR(拡張現実)技術と衛星測位情報を組み合わせて活用する農作業支援アプリの開発や、衛星測位情報を基に正確な農薬散布が可能な大型ドローンの開発などが認定され、労働時間の大幅な削減と環境負荷の低減に向けた取り組みが進んでいる。今後、農業者間の情報共有を促し、現場の気付きのフィードバックやさらなる技術の活用につなげていきたい。

■ 食料・農業・農村基本計画における衛星データの利活用

「食料・農業・農村基本計画」(案)(注)では、農業の生産性向上、グリーントランスフォーメーション(GX)の推進、農業行政の効率化等に資する衛星データの活用・普及および政府調達を推進する旨を盛り込んでいる。これに関連して、「次世代の衛星データ利用加速化事業」を措置し、今後も技術の向上が見込まれる衛星データについて、農水省や宇宙航空研究開発機構(JAXA)等の関係機関が連携し、農林水産行政の実務における利活用を一層進めることとしている。

例えば、林野庁では現在においても山地災害の把握に衛星技術を活用しているが、将来的にはAIによる解析等の導入を進めることで、その利活用の加速化につなげていくこととしている。また、食料の安定的輸入を確保する観点から、主要穀物の主な生産地帯の気象情報を地図上で視覚的に把握できる、農業気象情報衛星モニタリングシステム(JASMAI)を開発し、無償閲覧を可能にしている。

■ 衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース

政府や自治体の業務の効率化や高度化を図るため、現在、内閣府特命担当大臣(宇宙政策)を座長とし、関係府省の副大臣等で構成する「衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース」において、データ利活用の実態や課題、推進方策の共有等を図っている。とりわけ、24年度からの3年間を「民間衛星の活用拡大期間」と位置付け、技術力を持った国内スタートアップ等が提供する衛星データを関係府省で積極的に調達・利用することで、さらなる投資が促進されるという好循環を生み出すことなどを目指している。

(注)4月11日、案のとおり閣議決定

【産業技術本部】

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