久保田氏
経団連は11月4日、東京・大手町の経団連会館で経済法規委員会企画部会(大内政太部会長)を開催した。慶応義塾大学大学院法務研究科の久保田安彦教授から、次期会社法改正を巡る論点について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
法務省は2025年4月から、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会において、会社法改正に向けた検討を進めている。私は同部会に委員として参加しており、そのなかでの主な検討事項を説明する。
■ 従業員等に対する株式の無償交付
現在、会社法には取締役・執行役を対象とした株式の無償交付の制度(株式報酬制度)はあるが、従業員や子会社の役職員(従業員等)を対象とした制度はない。そのため、従業員等には現物出資構成で株式を無償交付しているが、手続が複雑かつ煩雑である。そこで、株式報酬制度の対象に従業員等を含めることが検討されている。
手続には二つの案がある。A案は、株主総会決議を不要とするが、有利発行規制の適用は排除されない。B案は、有利発行規制は適用されない代わりに株主総会決議を要求する。
経済界は、従業員等への株式の無償交付は有利発行に当たらないとしてA案を支持している。一方、有利発行と判断されるリスクや、株主・投資家への説明を重視すると、B案が望ましい。
そこで、両案を併存させて、会社が選択できる制度にすることも一考に値する。
■ 株式交付制度
株式を対価とする企業買収を円滑に行いたいとのニーズから、株式交付制度の対象拡大や手続規制の緩和が検討されている。株式交付は、自社株式を用いて他社を子会社化する組織再編行為である点が前提となる。
対象拡大については、持分会社や外国会社の子会社化などへの適用は認められる方向である。経済界は子会社株式の追加取得への適用拡大も要望しているが、組織再編行為に該当するかが議論されている。
手続規制の緩和については、反対株主の株式買取請求権を廃止すべきかが議論されている。株主への影響は小さいとする意見もあるが、過大な対価が交付される可能性も指摘されている。
■ 実質株主確認制度
現行法上、金融商品取引法の大量保有報告規制の対象となる場合を除き、名義株主の背後に存在する実質株主を確認できる制度はない。また、大量保有報告規制の実効性が十分でないという指摘がある。
そこで、会社が名義株主に情報提供を求めることができる実質株主確認制度の導入が検討されている。
複数の制度案が検討されており、会社が名義株主に情報提供を求めたものの対応されなかった場合の制裁として、名義株主に過料を課す案、名義株主の議決権行使に制限を設ける案、実質株主に情報提出義務を課す案が議論されている。会社支配の透明性の確保や、機関投資家の負担をどれだけ重視するかが検討のポイントである。
■ バーチャル株主総会等
現在、会社法ではバーチャルオンリー株主総会の実施は認められない。産業競争力強化法に基づき、経済産業大臣および法務大臣の確認を受けた上場会社のみが実施できる。
そこで、会社法での制度化が検討されており、定款の定めの要否や、通信記録の作成・保存・閲覧等が主な論点となっている。
バーチャルオンリー株主総会には、通信障害が生じた場合の決議の取消しのリスクが指摘されている。
そこで、通信障害による法令違反が会社の故意または重過失によらない場合には決議取消しの対象外にするセーフハーバールールを設けることが議論されている。
【経済基盤本部】
