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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年5月7日 No.3222 第14回「経団連 Power UP カレッジ」 -「現場力」/三井物産の飯島社長(現会長)が講演

経団連事業サービス(榊原定征会長)は3月16日、東京・大手町の経団連会館で第14回「経団連 Power UP カレッジ」を開催し、三井物産の飯島彰己社長(現会長)から講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 後継社長の指名

新聞等で32人抜きと取り上げられた後継社長指名では、さまざまな角度から熟慮を重ねたが、最後の決め手は、第1に「若さと馬力」、第2に「ビジネスの心がわかる」、これは例えば取引の大小にかかわらず取引先を大事にする、といったこと、第3に「現場をよく知っている」、第4に「温かさと強い決断力がある」という4点であった。この4つはいずれも以前から重要だと考えていたが、本日のテーマ「現場力」の重要な構成要素でもある。

■ 新入社員時代の現場経験と上司の言葉

私は初任地の大阪で、小規模な町工場をまわり、取扱商品が製造工程でどう使われるか等、現場で取引先の方々からたくさんのことを教えていただいた。納期の誤発注で取引先の操業が止まりかけるなど、失敗しては怒られ、時に励まされたりした。転勤が決まり送別の席で上司から「君には顧客とうまくやっているとの自負があるようだが、単なる迎合だ。けんかをしてでも言うべきことがあるはず」と言われたのはこたえた。これを契機に「言うべきは言う」スタイルを取るようになった。

海外では、ブラジルで荷受日がワールドカップのブラジル戦に当たり、作業員が働かず巨額の滞船料を要求されたり、ロシアで原料の輸送中に貨車ごと盗難にあうなど、さまざまなトラブルに遭遇した。その際も現場に通っていたことが解決のきっかけとなり、現場経験の積み重ねが瞬時の判断に役立った。

トラブルを避け、新しいことに挑戦しなければ何も生まれない。現場で身につけた知見を活かし、パートナーの信頼・協力を得ながら、リスクを取って挑戦する気構えが重要である。そしてリスクを取って新事業にゴーサインを出すのが社長の仕事である。

■ 社長の仕事

社長の主な仕事は、(1)企業における最終決断(2)次世代を見据えた体制づくり(3)トップセールス(4)企業のブランド力の向上――の4つである。

1つ目の最終決断は、企業の命運を左右する全責任を負うことであり、大変な緊張感と重圧を伴う。リーマンショック対応、原油流出事故に関するBP社との和解交渉、チリ銅山をめぐるアングロ・アメリカン社との係争など、この6年間さまざまな試練に遭遇したが、営業現場でのトラブル対処の経験が役立ち、逃げずに相手と向き合い信頼関係を築くことで乗り越えてきた。一方判断に際しては「モヤモヤ感」というような暗黙知も大事であり、練習を重ねると体が自然と動くように、本質を見極める勘を養う必要があると感じている。

2つ目に、成長し続けるために良質な事業を創出できる環境を整え、現場力のある人材を育成すること。当社では1891年以来、25カ国に延べ2000人の語学修業生を派遣し、グローバル人材を育成してきた。人さえ育てておけば企業は進化できる。また、企業として存続し続けられるよう、「稼ぐ」ことの大事さを再認識してもらう必要もあり、社員との直接対話を日々実践している。

3つ目に、各国政府の首脳や企業トップと直接会うこと。これは最前線の社長の現場ともいえる。現場に精通し対話力を培うことが大事であり、自分との闘いでもある。対話によって果実を得るには、相手の背景の徹底理解と周到な準備が欠かせない。

そしてもう1つ、企業のブランド力を向上させること。今般、「360°business innovation」というコーポレート・スローガンを策定したが、これには現場力の大切さという意味も込められている。企業の看板、ブランド力があれば、それだけお客さまとのコミュニケーションも取りやすくなり、社員の現場力発揮の援護射撃にもなる。

■ 強い現場とビジネスの心

当社はしっかりと収益を上げる活力溢れる無数の現場のうえに成り立っている。そのよって立つ根幹は「強い現場」と社員一人ひとりの「ビジネスの心」。これらを維持、強化するためには、どんなにICTが発達した時代になっても、直接現場に足を運び、現場や現物をみて、直接人に会って会話することが重要である。

当社の本質はお客さまやパートナーのバリューを向上することであり、そのためには当社の人材のバリューを上げること、育成が不可欠である。そのカギは現場。修羅場、正念場の経験は、人が育つうえで何よりも代えがたいものである。

【経団連事業サービス】

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