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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年7月14日 No.3278 これからの障害者雇用~改正のポイントと実務対応<第2回> -差別禁止・合理的配慮の対象となる障害者の範囲/福島大学行政政策学類(法学専攻)准教授 長谷川珠子

2013年の促進法改正により、障害者に対する雇用差別の禁止や合理的配慮の提供義務が定められました(16年4月1日施行)。企業規模にかかわらず、すべての事業主がこれらの義務を負うことになりますが、他方で、これらの規定の対象となる障害者とは誰を指すのでしょうか。

「障害者」というと「障害者手帳の所持者」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実は、差別禁止等の対象となる障害者は、障害者手帳の所持者に限られません。この点が、制度の把握を難しくする一因であり、実務上も重要になると思われますので、今回は、「障害者の範囲」について詳しく解説します。

■ 改正促進法2条1号における障害者の定義

促進法は、法全体の適用対象となる「障害者」の定義(2条1号)を置いたうえで、それとは別に、雇用義務制度の適用を受ける「対象障害者」という概念を有しています(37条)。

促進法2条1号では、障害者を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む…)その他の心身の機能の障害(…)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な者」と定義しています。今改正により追加された傍線部は、解釈上は改正前も2条1号に含まれるとされていたところ、そのことをより明確なものとするために文言上も付け加えられたと説明されています。

この定義はこれまで、ハローワークが障害者に職業紹介をする際や、障害者職業センターが障害者に対し職業訓練を実施する際等に、施策の対象者を画するものとして用いられてきました。改正後は、差別禁止と合理的配慮の対象となる者も、2条1号により判断されます。

この規定の障害者は、図表のように整理できます。現在の雇用義務の対象障害者は①と②ですが、今改正による精神障害者の雇用義務化(18年4月施行)後は③も含まれることになります(なお、現在も③の精神障害者を実際に雇用している場合は、実雇用率にカウントできる措置が取られています)。このように、雇用義務制度の対象障害者(①②③)は、原則として障害者手帳の有無により判断され、それらの者を雇用した場合に、実雇用率としてカウントすることができます。

障害者雇用促進法における「障害者」の範囲
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■ 差別禁止・合理的配慮の対象となる障害者とその確認方法

これに対し、差別禁止・合理的配慮の対象となる障害者には、障害者手帳の所持者(①②③)だけでなく、手帳を所持しない者(④⑤)も含まれます。したがって、合理的配慮を求めてきた従業員が、障害者手帳を所持していないからといって、それだけで合理的配慮の提供を拒否することはできません。

それでは、④や⑤に該当するかどうかは、どのように確認するのでしょうか。厚生労働省作成の「改正障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第2版】」によると、障害者総合支援法に基づく受給者証や難病法に基づく医療受給者証の所持者は、それらの受給者証によって確認します。また、障害者手帳やそれらの受給者証を所持しない、統合失調症、躁うつ病、てんかん、発達障害、高次脳機能障害の人等については、本人の了解を得たうえで、障害名や疾患名を記載した医師の診断書または意見書により確認するとされています。

しかし、診断書等は、その病気を有するということを示すものであり、その病気により「長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け」ていることを必ずしも示すものではありません。そのため、その人に合理的配慮を提供すべきか疑義が生じることもあるでしょう。そのような時には、これまで促進法2条1号の障害者に当たるかどうかを判断してきたハローワーク等の機関の助言を求めることも有効です。

<参考図書>渡邊岳・小栗道乃「従業員の健康情報に関する実務上の留意点」労務事情1317号(2016年)

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