Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年7月21日 No.3279  これからの障害者雇用~改正のポイントと実務対応<第3回> -障害者に対する雇用差別の禁止/福島大学行政政策学類(法学専攻)准教授 長谷川珠子

改正促進法は、雇用にかかわるすべての事項について、障害者に対して障害を理由に差別することを禁止しています。今回は、差別禁止の内容を具体化するために、厚生労働省が策定した「障害者差別禁止指針」(以下、指針)を参考に、障害者に対する雇用差別の禁止について解説します。

■ 基本的な考え方

障害者に対する差別の禁止は、募集・採用時と採用後とに分けて定められています。募集・採用時、事業主は障害者に対して、障害のない者と均等な機会を与えなければなりません。採用後に事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由に、不当な差別的取り扱いをしてはなりません。企業規模にかかわりなく、すべての事業主が同規制の対象となります。

促進法が禁止する差別とは、「差別意図」のある不利益取り扱いです。例えば、障害者であることを理由として障害のない者よりも低い賃金を設定すること等です。なお、車いす、補助犬その他の支援器具等の利用、介助者の付添等を理由とする不当な不利益取り扱いも、禁止される差別に該当します。

■ 差別的取り扱いの具体例

指針は、募集・採用、賃金、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種の変更、雇用形態の変更、退職の勧奨、定年、解雇、労働契約の更新を列挙し、各場面において禁止される差別を説明しています。それらの差別は、(1)障害者のみを対象から外す、または障害者のみを対象とすること(2)障害者に対してのみ不利な条件を付すこと(3)障害のない者を優先すること――の3類型に整理できます。

募集・採用において能力要件を付すことが、業務遂行上特に必要と認められる場合には差別に該当しません。ただし、能力の判断は、合理的配慮の提供が行われたうえでなされなければなりません。促進法は、障害者を障害のない者よりも不利益に取り扱うことすべてを差別として禁止しているわけではなく、異なる取り扱いを正当化する合理的な理由がある場合には許されるとの立場を取ります。例えば、一定の視力を必須とする運転手等の職業に視覚障害者を採用しないことは、業務遂行上特に必要な条件を付すものであり、差別とはなりません。これに対し、パソコンを用いる事務作業の場合、視覚障害があっても、読み上げソフト等の利用により作業が行える場合があります。視覚障害者はパソコンを使用できないという先入観等により採用を拒否することは、正当な理由のない差別となります。

次に、中途障害や障害の症状の悪化により、従前の職務の遂行が困難となる場合を考えます。事業主はまず、合理的配慮の提供により、従前の職務の遂行が可能となるかどうかを検討しなければなりません。その合理的配慮が過重な負担となる場合や、合理的配慮をしてもなお重要な職務の遂行ができない場合に、配置転換や職種・雇用形態の変更を検討することになります。

■ 法違反とならない取り扱い

以下の4点は、禁止される差別に該当しないと考えられています。

第1に、積極的差別是正措置として、障害のない者より障害者を有利に取り扱うことです。したがって、障害者の採用枠を設定し優先的に採用することは許されます。ただし、障害者は特別枠でしか採用せず、通常の採用枠から排除することは許されません。

第2に、合理的配慮を提供されても、職務遂行能力に差異がある場合、その差異に相応した限度で不利益取り扱いをすることは、差別に該当しません。

第3に、合理的配慮を提供した結果として、障害のない者と異なる取り扱いとなることも差別には該当しません。人事異動のサイクルや教育訓練の内容・方法について、合理的配慮として障害者には通常と異なる取り扱いをすること等が想定されています。

第4に、障害者専用求人の採用選考や採用後において、能力や適性の判断、合理的配慮の提供のためなど、雇用管理上必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況等を確認することも、差別にはなりません。ただし、通常の求人の場合は、業務に密接にかかわる情報ではない限り、障害の状況等を確認することは控えるべきでしょう。

<参考図書>小山博章・町田悠生子「差別禁止・合理的配慮の提供における実務上の留意点」ビジネス法務16巻1号(2016年)

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