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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年7月28日 No.3280 これからの障害者雇用~改正のポイントと実務対応<第4回> -合理的配慮の提供義務/福島大学行政政策学類(法学専攻)准教授 長谷川珠子

改正促進法は、募集・採用時および採用後において「合理的配慮」を障害者に提供することを事業主に義務づけています。今回は、厚生労働省が策定した「合理的配慮指針」(以下、「指針」)を参考に、合理的配慮について詳しく解説します。

■ 基本的な考え方と具体的な合理的配慮

企業規模にかかわらずすべての事業主は、募集・採用時および採用後において、合理的配慮を障害者に提供する義務を負います。募集・採用時は、障害者に均等な機会を与えるための措置が合理的配慮となります。例えば、視覚障害者に対し点字や音声による採用試験を行うこと、聴覚障害者に対し筆談で面接を行うこと、知的障害者や精神障害者に対し面接時に就労支援機関の職員等の同席を求めること、試験時間を延長すること等です。採用後は、均等な待遇の確保や障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための措置が合理的配慮となります。例えば、業務指導や相談に関し担当者を決めること、出退勤時刻・休暇・休憩に関し通院・体調に配慮すること、業務量等を調整すること、スロープや手すりの設置等の施設を整備することが含まれます。

具体的な合理的配慮例は、指針別表に、視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病に起因する障害、高次脳機能障害という9つの障害ごとに、募集・採用時と採用後に分けて示されています。これらの例は、多くの事業主が対応できると考えられる措置として掲げられているものですが、あくまで例示であり、すべての事業主が必ず実施しなければならないものではありません。他方で、指針別表以外のものでも合理的配慮に該当するものがあることに注意が必要です。合理的配慮は個々の障害者の障害の種別や程度および職場の状況に応じて提供されるものであり、多様でかつ個別性の高いものです。合理的配慮の内容をさらに知りたい方は、指針別表のほか、厚生労働省作成の「Q&A」や「合理的配慮指針事例集」をご覧ください。

■ 過重な負担の判断要素

事業主は合理的配慮の提供義務を負いますが、その提供が事業主に過重な負担を及ぼす場合は、その義務を免れます。過重な負担に当たるか否かは、(1)事業活動への影響の程度(事業所における生産活動やサービス提供等への影響の程度)(2)実現困難度(事業所の立地状況や施設の所有形態等による当該措置を講ずるための機器や人材の確保、設備の整備等の困難度)(3)費用・負担の程度(4)企業の規模(5)企業の財務状況(6)公的支援の有無――を総合的に勘案しながら、個別に判断することになります。

■ 合理的配慮提供の手続き

合理的配慮の提供にあたっては、手続きが重視されています。手続きの流れは、(1)合理的配慮の必要性の把握(2)合理的配慮の内容に関する話し合い(3)合理的配慮の確定――となります。募集・採用時と採用後で異なるのは、(1)の段階です。募集・採用時においては、障害者からの合理的配慮の申し出が必要とされます。これに対し採用後は、事業主が職場において支障となっている事情の有無を確認しなければなりません。障害者であることを事業主が把握している場合は、雇入れ時までに職場で支障となっている事情の有無を確認し、その後も定期的な確認が求められます。障害者であることを把握していない場合には、把握した段階で対応を取ればよいとされます。なお、事業主が必要な注意を払っても障害者であることを知り得なかった場合には合理的配慮の提供義務が免除されます。

次に(2)として、合理的配慮の内容について、事業主と障害者とで話し合うことが求められます。この話し合いを踏まえ、(3)合理的配慮が確定されます。事業主は、合理的配慮の提供にあたり、障害者の意向を十分に尊重することが求められますが、複数の合理的配慮となり得る措置があった場合は、事業主がより提供しやすい措置を講ずることが許されます。

■ 相談体制の整備

採用後の合理的配慮の提供にあたり、事業主は、障害者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければなりません。具体的には、相談窓口を設置し労働者に周知することや、相談窓口の担当者が適切に対応できるよう必要な措置を講ずること等が含まれます。

<参考図書>長谷川珠子「日本における『合理的配慮』の位置づけ」日本労働研究雑誌646号15頁(2014年)

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