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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年9月15日 No.3285 コーポレートガバナンス・コード対応の傾向と課題<第3回> -任意の委員会設置と後継者の計画/森・濱田松本法律事務所 弁護士・澤口実

コーポレートガバナンス・コード(以下、コード)の策定後、急増しているのが、取締役会に設置する任意の諮問委員会である。その1つである指名諮問委員会における最重要テーマといわれているのが「後継者の計画」である。今回は、この2点について取り上げる。

1.任意の委員会設置の急増

上場企業を中心に任意の委員会の設置が急増している。指名委員会等設置会社における指名委員会や報酬委員会に相当する任意の委員会を設置する上場企業は、昨年6月時点では64社であった。これが、昨年10月時点では251社、そして今年8月末時点では610社となり、約10倍に急増している。

今年7月時点のTOPIX500構成企業における状況をみてみよう。

指名諮問委員会は233社が、報酬諮問委員会は259社が設置している。法定の委員会がある指名委員会等設置会社を除くと、約5割で任意の委員会が設置されていることとなる。なお、指名と報酬について同一の委員会とする会社は85社あった。

任意の委員会の名称をみると、指名諮問委員会では指名委員会、指名諮問委員会、人事委員会が、報酬諮問委員会では報酬委員会、報酬諮問委員会、役員報酬委員会が、さらに、指名と報酬について同一委員会で審議する場合は指名報酬委員会、指名報酬諮問委員会、ガバナンス委員会が、それぞれ多くの企業で使用されている。

2.社外取締役の関与

任意の委員会において委員の過半数を社外取締役が占める会社は、指名諮問委員会では44.6%、報酬諮問委員会では43.2%であった。そして、「過半数」ではなく「半数以上」を社外取締役が占める会社となると、指名諮問委員会では65.2%、報酬諮問委員会では63.7%となる。また、任意の委員会の議長を社外取締役とする会社は、指名諮問委員会では47.2%、報酬諮問委員会では49.4%となっている。

このように想像以上に、社外取締役の影響力を重視した組織構成が広がっているといえよう。これは、コードの原則4-10-1で例示される任意の委員会が「独立社外取締役を主要な構成員」としていることの影響が大きい。

なお、任意の委員会の委員の過半数が社外取締役ではなく、議長も社外取締役でない会社も、指名諮問委員会では31.8%、報酬諮問委員会では31.3%存した。

3.投資家の関心

株主・投資家の多くが、任意の委員会の設置については歓迎しているが、設置企業の増加に伴い、その関心は任意の委員会の実情に移り始めている。文字どおり、任意の委員会は法令に基づくものではないから、その構成のみならず権限についても法令に反しない範囲で自由に決めることができる。

したがって、委員会の権限は強力にも非力にも設計可能である。具体的には、諮問事項の内容や審議のプロセスにより、任意の委員会の意味合いは大きく異なり得る。任意の委員会に関する設置拡大後の課題や投資家の関心事項は、その運営自体となろう。

4.後継者の計画

指名諮問委員会で審議する事項のなかで、最も重要と目されているのが「後継者の計画」であり、コード4-1-3で「取締役会は、会社の目指すところ(経営理念)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべきである」とされたものである。

この「後継者の計画」は、米国等のサクセッション・プランの考えに基づく概念である。そして、その中核は次の社長を誰にするかという点であり、今まで社長や会長の実質的な専権事項と考えられていたものである。

それ自体はガバナンス報告書の開示事項ではないし、そもそも多様な考え方があり得るので、各社の事情や各取締役会の考えに基づき判断すべきことである。しかし、株主の利益を代表する立場の社外取締役が、次の社長の選定プロセスに一定の関与をすることは株主・投資家から強く求められている。その一方で、社内の情報が乏しい社外取締役の役割を過大にとらえてもうまく機能しない。指名諮問委員会の運営と同様、取締役会も経営者が納得できるかたちとするための模索が続いている。

◇◇◇

次回は、取締役会の実効性評価について取り上げる。

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