Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年7月27日 No.3325  「中国の知財侵害訴訟の最新動向」聞く

経団連は7月13日、東京・大手町の経団連会館で知的財産委員会企画部会(堤和彦部会長)を開催し、中国の知財侵害訴訟に精通したBLJ法律事務所弁護士の遠藤誠氏から「中国の知財侵害訴訟の最新動向」を聞き、意見交換を行った。
遠藤氏の説明の概要は次のとおり。

近年、中国は国を挙げて技術革新を奨励している。中国の知的財産権の出願数および登録数は世界最多であり、知財の保護を強化している。知財侵害訴訟件数も世界一多く、中国国内企業が外資系企業から巨額の損害賠償を得る事案が続出している。加えて、膨大な数の行政摘発も実施されている。

中国の特許侵害訴訟の損害賠償額は、(1)特許権者の損失 (2)侵害者の得た利益 (3)特許のロイヤルティーの1~3倍の額を参考に裁判所が確定した賠償額 (4)((1)~(3)に基づく損害賠償額の算定が困難な場合)侵害行為の性質や情状等に基づいて裁判所が1万~100万元の範囲で賠償額を確定する「法定賠償」――の4つの算定基準があるが、実際の裁判では(4)の法定賠償による賠償額の算定が98%程度を占める。加えて、損害額が法定賠償の上限を超えることを証明した場合には、法定賠償の上限を超えて賠償額を確定する「裁量賠償」の仕組みもあり、実際の裁判で、外資系企業による特許侵害に対し、法定賠償の上限を大きく超える8000万元(約13億4300万円)の賠償額が命じられた事案もある。

現在、中国では特許法の改正作業が行われており、(4)の法定賠償の上限を300万元に引き上げるよう検討されている。加えて、故意の特許侵害行為に対し、裁判所の裁量で、(1)~(3)により認定された賠償額の2~3倍の賠償額を命じることができる「懲罰賠償」(注1) の導入も検討されている。法定賠償の上限額引き上げや懲罰賠償の導入は、中国の裁判官による賠償額算定の恣意的運用を増加させ、巨額の損害賠償認定を誘発する懸念がある。

なお、「日本では、知財侵害訴訟数が少ないうえに賠償額も低く、知財の価値が十分に反映されていないことから、懲罰賠償を導入すべきだ」との主張(注2)が一部にあるが 、わが国で故意による知財侵害が蔓延している事実はなく、懲罰賠償はわが国の民法の填補賠償の考え方(注3)にもなじまないことから、現在、わが国は懲罰賠償を導入すべき状況にない(注4)

(注1)知財侵害に懲罰賠償を導入しているのは、中国のほか、米国等コモン・ロー法体系の国々等に限定される。中国では、2013年に商標法に懲罰賠償が導入されたが、すでに法定賠償の仕組みが確立していることから、懲罰賠償が認容された判決は見当たらない

(注2)自民党「知財紛争処理システム検討会」(座長=三宅伸吾議員)による提言「イノベーション促進のための知財司法改革~『特許資産デフレ』からの脱却を目指して」

(注3)不法行為の賠償は、被害者が受けた損害を補填する「原状回復」を目的とするという考え方

(注4)懲罰賠償の導入は、高額の賠償金ねらいの濫訴を招きかねないなど企業のイノベーションを阻害する可能性が高いことから、経団連としても導入に反対している

【産業技術本部】