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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年9月7日 No.3329 米国政治の最新情勢 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学教授) 久保文明

トランプ政権発足後約8カ月となる米国の最新の政治情勢について、ホワイトハウスの現状、大統領と議会との関係、外交政策の課題を通して解説する。(8月28日執筆)

■ 揺れ続けるホワイトハウスの布陣

大統領の支持率が、政権発足後約8カ月の時点で30%台後半と低迷していることからうかがえるように、トランプ政権はまさにいばらの道を歩んでいる。

その象徴は、揺れ続けるホワイトハウスの高官人事である。プリーバス首席補佐官、バノン首席戦略官、フリン国家安全保障担当補佐官らがすでに去った。トランプ大統領はコーミーFBI長官を解任したが、これはトランプ選挙対策本部がロシアとの不正な関係を持っていたかどうかをめぐる問題で捜査を行っていたFBIに対する措置であり、深刻な政治的含意を持つ。

新首席補佐官には、政権発足以来国土安全保障省長官を務めてきたケリー氏が任命された。5月ごろからトランプ大統領から首席補佐官就任を依頼されていながら、なかなか首を縦に振らなかったようである。ほとんど権限を委譲されなかった前任のプリーバス氏の轍を踏まぬよう、強力な権限を求めていた可能性がある。

プリーバス氏のもとでは30人程度の部下がアポイントメントなしで大統領と会っていたとのうわさすらあるが、ケリー氏のもとではすべての面会予定をケリー氏が管理することになる。大統領のツイッターについてもケリー氏が送信前にチェックすることになっているようであるが、守られているかどうかは定かではない。

ケリー氏がいかに有能であったとしても、そもそも大統領の側に、ホワイトハウスに秩序をもたらそうという意欲がなければ、何をしても無駄であろう。8カ月間混乱を続けてきたホワイトハウスが正常化するか否かは、とりあえずはケリー新首席補佐官の手腕に、しかし究極的には大統領自身の自己規律にかかっている。

ちなみに、次官補以上の政府高官の任命の遅れも顕著であり、これもトランプ政権の政策実現能力を大きく阻害している。

■ 困難を極める内政課題

大統領と議会共和党との関係も深刻である。オバマケア(オバマ政権時代に導入された健康保険改革)の撤廃ないし改革に失敗したことは、周知のとおりである。それをめぐって、さらには白人至上主義批判について消極的態度と解釈され得るトランプ大統領の言動をめぐって、両者の間には不信感が横たわる。

メキシコ国境線上に建築する壁の予算を議会が計上しなければ、予算案に対して拒否権を発動すると現在、トランプ大統領は議会幹部を威嚇している。それがなくても、連邦政府債務上限引き上げ問題が重くのしかかっている。これは大統領対議会の問題ではなく、もっぱら議会の責任ではあるが、共和党がうまく党内をまとめ切れるかどうかは不明である。

いずれも、連邦政府が少なくとも部分的に閉鎖される可能性を含む問題であり、共和党統一政府(大統領と議会上下両院を単一の政党が支配する状態)のもとでそれが起これば、共和党の支持率を大きく下げることになるし、株式市場を含めて経済にも大きな混乱をもたらすであろう。

大統領と議会共和党双方が望む減税法案についても、現段階では法人税について20%台前半にまで下げられれば上出来、という雰囲気である。

■ 外交政策の課題

トランプ大統領は選挙戦では、孤立主義的方針を強く醸し出す「アメリカ・ファースト」を強調していた。同時にレーガン的強硬外交を示唆する「力を通じた平和(peace through strength)」というスローガンも使用したが、力点は前者に置かれていたように思われる。

しかし、就任後、トランプ大統領は明らかに後者に舵を切った。シリア空爆、アフガニスタン増派、日米同盟の評価、中国に対する対立的な政策、北朝鮮に対する厳しい政策など、枚挙にいとまがない。これらについては、マティス国防長官、マクマスター国家安全保障担当補佐官らの影響力が大きいのかもしれない。

これによって、例えば日米安全保障条約下でのアメリカの尖閣諸島防衛義務は確認され、また南シナ海ではすでに3回の航行の自由作戦が実施されている。

もちろん、TPP離脱、NAFTAおよび米韓自由貿易協定再交渉、あるいはパリ協定離脱など、「アメリカ・ファースト」を貫いた実績もある。それでも、基本は国際主義にかなりの程度回帰したといえよう。特に対北朝鮮政策は、激しいレトリックと交渉への呼びかけが交錯していてトランプ政権の真意を読み解くのは容易ではないが、基本路線は二次制裁(secondary boycott)の強化拡大であるとみて大きな間違いはないであろう。

むろん、この政策がどの程度の実効性を持つかは不明である。ただし、これまで本格的に試されたことがない手法であることは確かであり、試みる価値はあるといえよう。

【21世紀政策研究所】

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