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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年9月14日 No.3330 トランプ政権下の米中関係と北朝鮮問題 21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(法政大学教授) 森 聡

トランプ政権の外交・安全保障政策のうち、米中関係と北朝鮮問題について解説する。

■ トランプ政権の北朝鮮問題へのアプローチ

トランプ政権は、アジア太平洋地域全体を視野に入れた戦略をまだ打ち出していない。しかし、政権首脳陣の関心がアジアのなかでは北朝鮮に向いているのは明らかである。

トランプ政権は、オバマ政権の北朝鮮問題へのアプローチを「戦略的忍耐」と形容し、これは失敗したので、新たなアプローチをとるとしてきた。近年の歴代米政権は、実質的に2つの選択肢を北朝鮮に対して示してきた。すなわち、(1)交渉によって核・ミサイル開発を放棄するか(2)制裁に直面しながら核・ミサイル開発を進めるか――という選択肢である。予防的な軍事攻撃は、北朝鮮による報復攻撃のコストとリスクがあまりにも大きいため、選択肢からは排除されてきた。

これに対してトランプ政権は、(1)の選択肢を維持しつつ、もう1つの選択肢を軍事攻撃オプションにすげ替えようとしている。しかし、具体的にいかなる条件のもとで武力を行使するのかという「レッドライン」を具体的かつ明確に定義していないので、北朝鮮に政策変更を強いるには至っていない。北朝鮮が6回目となる核実験を強行したことで、制裁強化の機運が高まり、石油禁輸を中心とした制裁決議案が国連安保理で審議されそうだ。しかし、その内容は米中露の駆け引き次第で決まるので、北朝鮮を追い込むほど厳格なものにならない可能性もある。

アメリカと北朝鮮は互いに示威的な言動を応酬し、アメリカの軍事行動の可能性が高まっていると報じられている。しかし、本当の正念場は、トランプ大統領が具体的かつ明確なレッドラインを引いた時にこそ迎えることになる。というのも、アメリカが武力を行使する場合には、北朝鮮にその責任を負わせなければならないので、あくまで北朝鮮が故意にレッドラインを割って武力紛争を招いたという構図をつくる必要があるからである。

しかし、そもそもトランプ政権がそのようなレッドラインを引くのかどうかは定かではない。かたや交渉についても、イランの核合意を否定するトランプ政権が、交渉を通じて北朝鮮にどのような合意を求めるのかもよくわからない。

■ トランプ政権の対中政策

ところで、トランプ政権の対中政策上の優先課題は、北朝鮮問題と貿易赤字問題であるが、前者が優先課題とされてきたようにみえる。というのも、中国が北朝鮮問題で協力すれば、貿易赤字など経済問題で手加減するかのような姿勢をみせてきたからである(あるいは米国通商代表部や商務省などの関連省庁の中堅スタッフの政治任用が進んでいなかったというだけかもしれない)。つまり、トランプ政権の対中アプローチは、北朝鮮と貿易の問題でまずは中国がどこまで協力するかを見極めようとするものだった。

しかし、やがて中国がアメリカの期待したように制裁を強化しないということが明らかになってくると、トランプ政権は対中姿勢を硬化させ始めた。北朝鮮と取引のある中国企業に対する二次制裁や、米国通商法301条適用に向けた調査の開始といった動きにその兆候が表れている。

5月に発表された「100日計画」の第1弾では、アメリカの対中輸出を増やす措置等が示されたが、7月の米中包括経済対話は目に見える成果を挙げられなかった。南シナ海問題についても、航行の自由作戦を続行し、国防長官らは歴代政権の立場を踏襲することを明らかにしているが、東南アジア諸国は、「北朝鮮効果」やTPPからの離脱のせいで、この地域へのアメリカの関心が低下しているとの見方を強めている。つまり、トランプ大統領の「米国第一」という発想は、北朝鮮問題を最優先課題と位置づけ、その結果、対中政策がそれに従属し、東南アジアの優先度が相対的に低下するという現象を招いているようにみえる。

ある東南アジアの研究者は、オバマ前政権が「アジアへの転回(Pivot to Asia)」なる標語のもとで、アメリカの戦略的関与を北東アジアから東南アジアへと広げたのに対し、トランプ政権はアメリカの関心を東南アジアから北東アジアへと引き戻しており、これは「アジアでの転回(Pivot in Asia)」ではないかと揶揄した。

日本としては、短期的には、トランプ政権が北朝鮮問題に積極的に取り組むことを歓迎できるが、その過程で中国や東南アジアにまつわる安全保障上の中長期的な利益が損なわれないように、首脳外交などを通じてアジア太平洋全域への強固な関与をトランプ大統領に働きかけていく必要があろう。(9月7日脱稿)

【21世紀政策研究所】

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