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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年10月26日 No.3336 仏マクロン政権の現状評価と政策の方向性<下> ―今後のEUとフランス -21世紀政策研究所 解説シリーズ/早稲田大学国際学術院教授 片岡貞治

■ マクロンのEU改革提案

マクロン大統領は、選挙戦来、親EUを表明し、ユーロ圏大臣やユーロ圏議会の創設などさまざまな改革提案を行いつつ、常に仏独協調を重視する姿勢をみせていた。

9月26日にパリのソルボンヌ大学の大講堂で、「主権を有し、結束し、かつ民主的なEUのためのイニシアティブ」(Initiative pour l’Europe: Une Europe souveraine, unie, démocratique)と題する「EU改革プロジェクト」を発表した。その大講堂は、いみじくも26年前に、ライブでテレビ中継までされた、マーストリヒト条約の批准に関する国民投票をめぐって批准を推進する当時のミッテラン大統領と反対派の重鎮セガン議員(後の国民議会議長)とが展開した白熱した討論の舞台でもあった。

同講演会は、マクロン氏自身が温めてきた自らのEU改革案を大々的に披露する機会となった。そのためマクロン氏は、あえてドイツ総選挙の終了直後というタイミングを選んだのである。マクロン氏は1950年5月9日のシューマン宣言を引き合いに出しながら、欧州建設を推進したシューマン外相に思いをはせながら、「フランスが欧州に対し提案を行う時が、再び訪れた」と意気揚々と宣言した。

欧州防衛イニシアティブ、テロ対策、移民対策、エラスムスの拡大、気候変動対策、デジタル産業(GAFA=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)への課税および経済政策、アフリカ開発など、さまざまな具体的なテーマに沿って、長期的な視点に立って今後10年のロードマップとなり得る20にわたる野心的な改革提案を説明した。欧州防衛イニシアティブでは、共通介入部隊、共通防衛予算、共通行動理念の策定の必要性を説いた。他方でマクロン氏は、大きな改革の実現に向けては長期的な展望に立っていることを示唆し、パリ五輪が開催される2024年をEUにとっての重要な節目にしたいとも発言した。

実際にマクロン氏は、マクロン流の「Multi-speed Europe」を提案したのである。これまでの「Multi-speed Europe」は、欧州統合の進化と深化に関わる加盟国のスピード(ギア)の差を意味していた。統合の深化が進んでいる国はトップギアであり、そうでない国はローギアという定義である。それに対し、マクロン流「Multi-speed Europe」は、進化を遂げている国はさらに進め、遅れている国によってまひさせられることなく、全体で速めていくという考え方である。より包摂的な概念といえる。

■ 「新エリゼ条約」

ソルボンヌで、マクロン氏はあらためて仏独協調の重要性を説き、ドイツでは議論の余地のある政治統合や経済財政予算統合、ユーロ圏議会の創設などには言及せず、ユーロ圏の共通予算の策定を提案するにとどまった。ユーロ圏経済財政大臣の役割についても細部まで触れなかった。

マクロン氏自身は、より深化した仏独関係の改革案を抱いている。ドイツとのより深化した財政収斂、法人税の共通化、共通の商法や破産法の策定を経た両国の完全統合市場の実現の提案である。

仏独関係の再強化を目指すマクロン氏は、2018年1月22日にメルケル首相をフランスに招待し、新たな二国間の協力枠組みを策定する「新エリゼ条約」の締結を目指している。旧エリゼ条約は1963年に仏独友好を刻印し、協調の枠組みを構築するためにドゴールとアデナウアーが署名したものである。

マクロン氏は、自身が提案したEU改革案の実現にはメルケル氏とドイツのサポートが必要不可欠であり、仏独協調を土台にしてのみ可能となることを十分に理解している。それゆえ、EUを再活性化させると同時に仏独関係も再活性させようとしているのである。

【21世紀政策研究所】

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