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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年3月22日 No.3355 トランプ政権のこの1年と今後 <3>日米関係をめぐって -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 久保文明

■ 同盟の確認と展開

2017年2月の首脳会談以来、日米関係は当初の不安を乗り越え、安全保障面では円滑な展開を示してきた。首脳会談では、日米同盟はアジア太平洋地域における平和、繁栄、および自由の礎であることを確認し、同時にアメリカは核・通常戦力によって日本を防衛すること、そしてアメリカの日本防衛義務を規定した日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることも確認した。さらに南シナ海において、力によって現状変更を行うことに反対することでも一致した。トランプ大統領は日米首脳共同記者会見において、米軍を受け入れたことについて日本に謝意も表した。これらは、16年の大統領選挙戦中の発言を全面的に撤回したものであった。

さらに17年11月に東京で開催された首脳会談において、北朝鮮政策について圧力強化で歩調を合わせたほか、「自由で開かれたインド太平洋戦略」で一致した。ここでのハイライトは、まさにこのインド太平洋戦略での一致であろう。そもそも、これは日本が16年8月にアフリカ開発会議において打ち上げた方針である。アメリカは、アジアへのピボット(のちにリバランス)にみられるように、通常は一方的に大方針を打ち上げ、他国に支持を求めるが、今回は逆となった。これは珍しいパターンである。

自由で開かれたインド太平洋戦略の中身はまだ必ずしも明確でない。ただ、おおよそ以下のようなものであることは推測可能である。

中心となる国はアメリカ、日本、インド、オーストラリアである。中国による南シナ海での活動を念頭に置いて、海洋秩序、海洋における法の支配、航行および上空通過の自由の維持・擁護、力による一方的な現状変更への反対などを目的の1つとしている。アメリカの軍事力がここでは重要な役割を果たす。日本はベトナムやフィリピンの海上警察の能力強化で貢献できる。ただし、次にみられるように、この方針は、安全保障のみ、あるいは中国封じ込めのみの概念ではない。

この戦略はアジア・アフリカをつなぐインフラ整備も視野に入れている。こちらでは、日本による経済支援がそれなりの役割を果たすであろう。さらにこれらの地域における人材養成などにおいても、日本の役割は小さくないであろう。日本とアメリカの役割の相互補完性が予想される。

ただし、トランプ政権下の日米関係のすべてが順調なわけではない。第1に、18年に入って急に米朝首脳会談の予定が公表されたことは波乱要因である。日米を中心とした制裁が効果を現した可能性もある。しかし、アメリカが日本にとって不満足な妥協をする可能性も否定できない。

第2に、通商問題では日本側はこれまでほとんど成果を挙げていない。安倍首相による説得にもかかわらず、トランプ大統領は早々にTPP離脱を表明、また今年3月には日本も対象になり得るかたちで鉄鋼・アルミニウムに対する制裁関税を発表した。今年に入って大統領自身がTPP復帰の可能性を何度か示唆しており、関税についてもこれからの交渉次第であるが、1990年代以来経験していないかたちで、日米の通商政策が根底から食い違っている。

このようななかで、安倍首相はトランプ大統領と個人的に親密な関係を築いてきた。これが上述のようにすべての問題を解決したわけではないが、原則や価値観を重視しない政治家に対して、人間関係は重要な判断基準となり得るので、日本にとって貴重な資産ではある。ただし、問題は、個人的関係でもって、どの程度今後もさまざまな問題が生起することを阻止できるかであろう。

(3月12日脱稿)

【21世紀政策研究所】

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