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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年8月30日 No.3374 AI社会と文理融合 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/首都大学東京都市環境学部特任教授 戸崎肇

戸崎特任教授

労働力不足の問題が深刻化するなか、新たに脚光を浴びているのがAI(人工知能)である。自動車の自動運転化を可能にし、医療診断を行うなど、あらゆる分野での応用が進められている。そのなかでも特に期待したいのがオリンピックを控えたテロ対策でのAIの活躍である。空港ではどれほど警備を強化しようと、人手を際限なく導入できるわけでもなく、なかなか完全なセキュリティ管理を行うことは難しい。

これに対してAIを活用すれば、かなりの精度で不審者を早期に発見でき、最終的には人の手で最終的なチェックを行えばよいことになる。この結果、空港や駅は今以上に人の流れがスムーズになり、また保安要員も最小限にとどめられ、空港運営のコスト削減も可能となり、別の側面での付加価値追求が可能となる。

これは医療の場合も同じである。最初の検査はAIが行い、それで何らかの異常がみられた段階で医者に後の判断をゆだねることで、医者の負担を軽減するとともに、過労による判断ミスも防ぐことができる。

しかし、AIの活用に関して留意しなければならないことがある。

社会のシステムの「ブラックボックス化」がさらに進むことである。そうなると、システムに不具合が起こった場合の損害が極めて大きくなる可能性が高まる。どこに不具合があるのかを診断することが難しくなり、復旧に多大な時間とコストがかかることに加え、システムの全貌もみえにくくなるためにその影響も甚大なものとなりかねない。

また、これからは、AIと人間との関係性を考える人文学的、社会科学的な見地からの貢献が重要となる。そのためにこそ、文理の枠組みを超えた知の交流が今まで以上に求められている。

文理融合という課題を考える時、重要になるのは、文系、理系の双方が、どこまでお互いを理解しようと努力してきたかという問題である。そして、これは文理の間に限った問題ではない。専門の「タコ壺化」が進んでいるといわれて久しい。研究者は自分の専門領域のなかでの議論に終始し、他の分野、とりわけ一般の人々に理解してもらおうという努力はほとんどといっていいほどみることができない。一般の読者を想定してわかりやすく論文を書こうとすれば、それは学会のしきたりに沿わない「低俗」なものとして、適切に評価されないどころか、非難されてしまうのだ。今後は、どれだけ一般の人にもわかりやすく表現できるかで研究者も評価されるべきである。

この点、私が学んだ京都大学経済学部では、新入生に対する入門の講義では、大学内で最も著名な教授たちを教壇に立たせていた。これは、「偉大な人物ほどその言説はわかりやすい」という古くからの言葉を反映させたものとして評価すべきである。わかりやすく講義を行うことは、その対象である学生に媚びるというのではなく、安易に専門用語を振り回し、自らが一種の思考停止に陥ることを防ぐことにつながる。この姿勢を文理の間でも実践すべきである。

また、近年、大学のキャンパスは理系と文系で場所が分かれる傾向がある。ノーベル賞受賞者を多く生み出してきた研究所や大学では、さまざまな専門をもつ研究者が、お互いの学問の垣根を超えて自由に話し合える環境を整備していた。そこでの自由な会話から新たなインスピレーションが生まれやすいことは理解しやすい。大学、研究所の文理融合に向けた物理的な研究環境の再整備も問われるところだ。

【21世紀政策研究所】

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