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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年4月25日 No.3406 盛り上がりをみせる米国の温暖化政策論議<下> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

有馬研究主幹

2020年の大統領選の帰趨については全く予断を許さない。米国の著名な選挙ウオッチャーによれば、トランプ再選の可否は(1)ロシア疑惑に関するムラー特別検察官報告(2)米国経済の状況(3)民主党候補が誰になるか――の3点にかかっているという。そうしたなかでグリーン・ニューディールに象徴される民主党の左旋回はさまざまな影響をもたらすと考えられる。

民主党支持層のなかで左派リベラルが発言力を強めているため、大統領候補になるためには彼らの支持を得なければならない。これは民主党候補者が従来よりも左傾化することを意味する。トランプ大統領の強固な支持層は35%、強固なアンチトランプは45%といわれるなかで選挙の帰趨を握るのはどちらでもない20%である。「サンダースやウォーレンといった左派が候補者になった場合、トランプ陣営に有利。トランプ陣営にとって最も戦いにくいのはバイデンのような中道派」という見方を複数の関係者から聞いた。ある民主党関係者は「トランプが大統領選で負けると思い込むのは大きな間違いだ。トランプが勝つことも十分にあり得る」と言っていた。

20年に民主党政権が誕生したとしても、グリーン・ニューディールがそのまま実施されると考える人はほとんどいない。決議案はビジョン・ステートメントのようなものであり、具体的政策は何も書かれていないからだ。ただ米国のエネルギー温暖化政策が「オバマ政権がブラウン(=グリーンの反対)に見えるほど」(米環境シンクタンクの見方)大きく変わることは間違いない。その際、キャップ・アンド・トレードや炭素税といったカーボンプライシングが導入されるのかどうかが注視される。下院ではポールソン、シュルツ、ベーカーの炭素配当案の考え方を取り入れた法案が提出されている。20年の議会選挙の結果いかんによっては、そうした動きが出てくるかもしれない。

民主党、共和党の関係者に考えを聞いてみると、民主党が上下両院で多数をとったとしても「ハードルが高い」という。キャップ・アンド・トレードはオバマ政権下でワクスマン・マーキー法案をトライしたがうまくいかなかった。炭素税については民主党の知事、州議会を擁するワシントン州でも再三にわたって導入を試みたが失敗に終わっている。税収を全額配当として還付する炭素配当ならば、かつての共和党重鎮が提案していることもあり、共和党の一部の賛成も得られるのではないかと聞いたところ、共和党関係者からは「彼らは過去の人であり、議会に議席も有していない。現在の共和党への影響力はゼロである。また炭素配当のかたちで国民に還付したとしても産業界への悪影響は残る」との答えであった。他方、民主党関係者は「シュルツ提案は炭素配当を導入する一方、EPAのさまざまな規制権限を撤廃することを提唱している。環境関係者はカーボンプライシングも重要だが、規制も重要であると考えている。また炭素配当といってもその財源は税であり、新税導入に対する米国民のアレルギーは非常に強い」との答えであった。

「それではどのような政策が考えられるのか」との問いに対し、複数の関係者から言及があったのがクリーンエネルギー基準(例えば電力供給の一定割合を再生可能エネルギー、原子力、CCS等の非化石電源とする等)のような規制的措置であった。経済的措置の費用対効果が高いとしても、価格がはっきり目に見える税は拒否反応が強いので、コスト高であっても規制的措置の方が支持を得やすいという。

米国のエネルギー温暖化政策動向はわが国にも直接、間接にさまざまな影響をもたらすであろう。今後の選挙戦のなかでどのような政策が公約として出てくるのか注視が肝要である。

【21世紀政策研究所】

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