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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年6月13日 No.3411 「デジタル化と『雇用の未来』『人材育成・働き方改革』」について聞く -雇用政策委員会人事・労務部会

経団連の雇用政策委員会人事・労務部会(國分裕之部会長)は5月24日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、経済産業研究所/日本生産性本部の岩本晃一上席研究員から、「デジタル化と『雇用の未来』『人材育成・働き方改革』」をテーマに講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ 人口急減の日本において大きく期待されるAI

人口が急減していく日本社会において、人工知能(AI)は重要な役割を担う。しかし、この本質が国民に認識されていないため、必要な予算や人員が不足しており、世界から周回遅れになっている。

■ 「雇用の未来」に関するさまざまな研究結果

2013年9月、オックスフォード大学のカール・フレイ博士とマイケル・オズボーン准教授は、「米国において10~20年以内に労働人口の47%が機械に代替されるリスクは70%以上」という推計結果を発表した。これを契機に「雇用の未来」に関する世界的な研究ブームが発生した。 その後多くの研究が進められたが、現在は「機械に代替されるリスクが70%以上であるのは、労働人口の約1割」というOECDの推計が専門家の間での合意となっている。

また、マサチューセッツ工科大学のデイビッド・オーター教授は、「米国では過去40年間の情報化投資により中スキルの職業が減少し、低スキルと高スキルの職業が増加した」という分析結果を示したうえで、これが米国において経済格差が拡大したメカニズムだとした。

将来予測に関する世界の研究成果を総括すると、以下の点が指摘できる。

  1. (1)中スキルのルーティン業務は継続して減少する
  2. (2)低スキルの作業は、技術進歩により一部が機械に代替され、その割合が増加していく。そして、いずれ人間を100パーセント代替するロボットが出現し、雇用者数は減少に転じる
  3. (3)高スキルの職業は、継続して増加する。企業のニーズが高まるなか、人材供給が追いつかずに賃金が上昇する
  4. (4)成長する新しいビジネスモデルのもとで雇用が増加する。

こうした「雇用の質」と「雇用の構造」の変化に早急に対応しなければならない。また、それによって生じ得る「経済格差」の問題への対応が重要である。

■ 人材の育成・活用

日本企業の生産性が低い主な要因として、人材の育成・活用の課題がある。日本企業では、人的投資が大幅に減少している。OJTによる人材育成は熱心に行っているが、今後は、OJTで身につく「企業内経験値」だけでは、新しいアイデアを生み出し、企業を牽引するための「幅広い情報、幅広い世界、幅広い人脈」を得ることはできない。

米国などでは、データサイエンティストの養成が進んでいる。日本では、政府や企業、大学による取り組みがようやく始まったところである。

OECDの調査等によれば、日本は個人の能力としては、世界でトップである。しかし、企業に入社後、その能力を十分に活かす働き方ができていない。

■ 日本企業の課題

先進諸国では「情報化」が進み、デジタル技術の導入による業務効率化や、付加価値の高い商品・サービスの開発、高スキルの人材の育成を行い、企業の競争力を高めている。他方、日本企業は、旧態依然とした状態で、その流れに完全に乗り遅れている。

OECDの分析によると、日本は米国やEUに比較して、中スキルのルーティン業務での雇用の減少の変化が少ない。また、高スキルの職業の雇用の増加も少ない。これは、情報化投資の低迷によるルーティン業務の機械への代替の遅れと、デジタル時代に対応した高スキル人材の確保・育成が進んでいないことが示されており、これが日本企業の低い生産性と競争力低迷の主な要因と考えられている。

また、日本の経営者はIoTに対する期待が低い。米国企業がルーティン業務を機械化していった時期、日本企業は非正規雇用労働者を増やしてルーティン業務を担わせたことが、情報化投資の遅れの要因でもある。

米国では情報化投資コストが労働コストを下回った時点で、一気に機械への代替が進んだが、日本においても、今後情報化投資コストが非正規雇用労働者のコストを下回った時点で、機械への代替が一気に進む可能性がある。日本は米国の企業を前例として、準備をしておかなければならない。

【労働政策本部】

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