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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年9月12日 No.3422 超高齢社会を見据えた未来医療予想図
~地域コミュニティーのリ・デザイン<上>
-21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(東京大学高齢社会総合研究機構教授) 飯島勝矢

飯島研究委員

わが国は世界の他のどの国も経験したことのない超高齢社会にすでに突入している。日本の高齢化が「世界でも類を見ない」といわれる理由の一つとして、高齢化の進行の速さ(高齢化率が7%を超えてから、その倍の14%に達するまでの年数)が挙げられる。

2005年から30年までに後期高齢者人口が倍増し、同時に認知症や独居高齢者も激増していきながら、今まさに多死時代に突入している。日本人の年間死亡者数がピークを迎える39年では165万人が亡くなるわけだが、そのうちの6割は85歳以上の超高齢者が占める可能性が高い。その大部分は大都市圏で著明となるが、そこで起こる未曽有の高齢化問題はこれまでの地方圏の対応・対策の延長だけでは限界にきている。わが国の医療政策が問い直されており、幅広い視点から医療・介護提供体制を大きく進化させていく時期に来ている。その意味では、多面的な視点からの社会的なイノベーション、すなわち地域コミュニティーのリ・デザインが急務である。

わが国において「地域包括ケアシステム」が打ち立てられ、約10年が経過した。なかでも在宅医療・介護連携を軸とした地域医療の底上げに重きを置き、全国の各地域で進めてきたが、地域ごとの進捗や機運の醸成の具合は当然ながら幅がある。

なぜ「生活を支える医療」が必要なのか。前述したように、人口構造の変化として少子高齢社会が加速しており、高齢者へのサポート体制も「騎馬戦型」から「肩車型」へと移行するとされる。社会保障制度改革においても、医療の効率化がさらに求められているなかで、社会的入院の是正なども視野に入れなければならない。時代の変遷により疾患構造の変化も顕著である。慢性疾患(いわゆる完治できない病態)が増加し、その最たるものが認知症、ロコモティブ症候群(運動機能が低下し自立度が低下することで、介護が必要となる可能性が高い状態)、そしてフレイル(虚弱)等である。

医学の進歩と裏腹に「Cure(治療)」を目指す方向性の限界を感じる場面も少なくない。例えば、救命や疾患治療ができたとしても著明な自立度の低下を残したり、高齢がん患者における積極的治療と幅広い緩和ケアのバランスも求められる。そして、国民の終末期医療(end of life care)に対する期待にも変化が出てきている。長寿より天寿を望む声も多く、延命治療の果てに病院で死ぬ文化を再考しなければならず、延命よりも「QOL(Quality of Life、生活の質や満足度ひいては人生の満足度など)」を重視した流れが重要である。

われわれの住んでいる地域には、目の前の医療課題だけではなく、数多くの多面的な課題とその重複が存在する。具体的には、人とのつながりの希薄さ、孤立化・ひきこもり、介護共倒れやダブルケア(介護と子育て・多重介護)、介護難民や買い物難民、待機児童問題、空き家問題等々、多岐にわたる。高齢期であってもいかに生活の質を保ち、よく生き切って人生を閉じることができるかという時代の要請に応える医療が今まさに求められている。

そこには「病人である前に『生活者』である」という理念のもとに、住み慣れた街全体で生から死までを地域全体で支え、みて(診て・看て)いくという地域完結型の医療への進化、そして機能分化型のシステム型医療へのパラダイム転換が求められる。すなわち従来の「治す医療」から「治し支える医療」という原点に立ち返る必要があり、その象徴的存在がまさに地域包括ケアシステムである。さらに強調するならば、「病気を診る、人を診る、家を診る、地域を診る」という考え方を全職種によって共通認識を持ち、シームレス(切れ目のない)な現場をつくり上げ、まさにこれまで培ってきた連携から統合へギアを上げ、セカンドステージに入っていくことが望まれる。

【21世紀政策研究所】

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