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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年10月24日 No.3428 財政健全化に向けて -慶應義塾大学の土居教授に聞く/経済財政委員会企画部会

説明する土居教授

経団連は9月27日、東京・大手町の経団連会館で経済財政委員会企画部会(中島達部会長)を開催し、慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授から、財政健全化に向けた説明を聞くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ 財政健全化の必要性

今年10月から消費税率が10%となり、財政運営は次なる局面へ移行するなか、財政健全化を進める必要性は大きく3点ある。1つ目は、団塊世代が75歳に到達し、社会保障費がさらに増大する2025年までに改革を進めなければならないという時間制約。2つ目は、政府の債務残高対GDP比が200%を超える異常な債務残高、利払費が税の自然増収を上回る財政構造、社会保障費と国債費以外は変化がみられない硬直した歳出など、堅実さに欠く財政状況。3つ目は、インフレ期待の上昇やデフレ脱却後の日本銀行の政策転換、高齢化による国内貯蓄の減少に伴う将来的な金利上昇リスクの高まりである。

こうした点を踏まえれば、25年度の基礎的財政収支の黒字化は、必ず達成すべき財政健全化目標であり、来年度の骨太方針は20年代前半の財政運営を示す重要な指針と位置づけられる。

■ 社会保障改革の方向性

高齢化による社会保障費の増加が見込まれるなか、その財源を支えられる財政基盤を確立しなければ、国民の将来不安は払拭できない。消費税率が引き上げられたいま、国民の納得感を得るためにも、まず着手すべきは社会保障改革である。政策的経費の過半を占める社会保障費は、40年には約190兆円まで増加すると見込まれるなか、今後の社会保障改革の方向性は、年齢ではなく負担能力に応じた負担への変更や、大きなリスクは共助(社会保障)で対応し、小さなリスクは自助で対応する制度への移行である。こうした姿を志向しつつ、医療・介護・年金の分野において、真に救うべき人を救えず、給付する必要のない人に給付している現状を改めることが重要となる。

医療分野では、切れ目のない医療を提供する観点からも、「病院完結型」の治療から、地域全体で治し、支える「地域完結型」の医療への転換をすべきである。また、データの利活用を通じ、より低コストで質の高い医療を横展開することで、診療の標準化が可能となる。

介護分野では、介護予防と介護給付費抑制に向けて、要介護認定を精緻化するとともに、軽度者へのサービスは、ボランティア等によるケアへ移行する一方、重度者へサービスをシフトさせることが効果的である。

年金分野では、20年度以降を見据えた老後の所得保障強化と、世代間格差是正に向けた財源分担のあり方を検討する必要がある。今後、マクロ経済スライドが適用されれば世代間格差は是正されるものの、所得代替率が低下し、年金で老後の所得保障をすることがより困難となり得る。全額が税財源である生活保護受給者の増加を招かないようにするためには、高齢者の生活をどこまで税で支えるか検討する必要がある。

■ 今後の税制のあり方

今後の税制で踏まえるべき点は、少子高齢化(世代間格差の是正)、グローバル化(国際競争)、財政健全化(税収確保)、地方分権化である。これらの要請に、税制がどう応えるかを検討することが重要である。税制で格差是正を図るにしても、経済成長を阻害しては意味がなく、成長を阻害せずに、いかに税収を確保するかが課題である。税収構造が経済成長に与える影響として、消費税は税収に占める割合が高まるほど、経済成長と親和的となるが、所得課税は経済成長を阻害するといわれている。こうした点への理解を深めるとともに、今後目指すべき方向としては、法人税は減税、所得税は所得再分配機能の強化、消費税は増税とすべきである。

【経済政策本部】

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