Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年11月28日 No.3433  国際テロの脅威に引き続き警戒が必要 -中川公安調査庁長官が国際テロリズムに関する情勢を説明/外交委員会

経団連の外交委員会(片野坂真哉委員長、大林剛郎委員長)は11月12日、東京・大手町の経団連会館で「国際テロリズムをめぐる最新情勢に関する懇談会」を開催し、公安調査庁の中川清明長官から、世界各地のテロ情勢やわが国・邦人に対する脅威の現状等について説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ ISILの現状

ISIL(イラク・レバントのイスラム国)は今年3月にすべての支配地を喪失したものの、シリアおよびイラクに残存しているとされる約1万4000~1万8000人もの戦闘員らが、これまでに獲得したとみられる約5000万~3億米ドルの資金を用いて、各地でテロを継続している。

10月には最高指導者バグダディが死亡したが、シリア、イラクでのISILのテロ活動は中枢幹部の指揮のもとで行われているわけでないとされ、各地のISIL関連組織も独自に活動しているため、ISILおよび関連組織の活動が直ちに減退する可能性は低い。

■ 各地域のテロ情勢

ISILは中東において、イランを「敵たるシーア派の国」、サウジアラビアを「欺瞞的な圧制者の国」、そしてトルコを「ジハードの戦場」とみなし、特に敵視している。ISIL中枢が弱体化したことと、各国の対策が功を奏したことにより、ISIL関連テロの発生件数は減少傾向にあるが、イランでは2017年と18年に大規模なテロが発生した。

欧米でもISIL関連のテロ発生件数は減少しているものの、過激思想に影響を受けた単独・少数の者による「一匹狼」型のテロが継続して発生している。欧米ではとりわけ刃物や車両など身近なものを凶器とした事案が、観光地や公共の場などソフト・ターゲットを標的として多発している。

東南アジアでは、ISILが「東アジア州」と位置づけるフィリピン南部やインドネシアを中心にテロが続発している。フィリピン南部はISILが拠点化を図っており、分離主義運動をルーツとする武装勢力が14年以降、ISILに忠誠を示して活動している。また、インドネシアでは世界に類例のない「家族テロ」が発生している。さらにタイでも今年9月に首都バンコク等でテロが発生したほか、スリランカでは4月に邦人1人を含む250人以上が死亡する同時爆破テロ事件が発生した。

■ わが国や邦人に対する脅威

過去7年の間に、8カ国のテロで邦人24人が死亡し、13人が負傷した。レストランや観光地等のソフト・ターゲットへの攻撃が増加するなかで、巻き添え被害が拡大している。

国際テロ組織は大規模スポーツイベントへのテロがもたらす宣伝効果を認識しており、20年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、引き続き警戒が必要である。また、12年のロンドン五輪以降、五輪の開催地はサイバー攻撃に見舞われている。セキュリティー対策が強固な中枢組織でなく、相対的に脆弱性の高い周辺組織が標的とされていることから、東京五輪でも緊張感を持って対応する必要がある。

公安調査庁としても、情報収集・分析能力の強化、国内外の関係機関との連携強化、海外進出企業等への危険情報発信力の強化、調査活動を支える人的・物的基盤の整備に取り組んでいく。

【国際経済本部】