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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年3月26日 No.3448 米国大統領選とエネルギー温暖化対策<下> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

有馬研究主幹

■ 超党派の支持の重要性

環境NGOが、より急進的な温暖化対策を掲げるサンダース上院議員の支持を表明する一方、ディリンジャーC2ES(Centre for Climate and Energy Solutions)副会長が強調する点は超党派の支持の重要性である。米国では温暖化問題が保守派、リベラル派の対立軸の一つになっており、政権交代のたびに連邦政府の施策が左右に大きく振れてきた。クリントン政権が署名した京都議定書からブッシュ政権が離脱する、オバマ政権が署名したパリ協定からトランプ政権が離脱する、オバマ政権の看板政策であったクリーン・パワー・プランをトランプ政権が解体するなどはその例だ。

ディリンジャー氏は、米国民の間で気候変動に関する関心が高まっているいまこそ、党派対立を超えて超党派の現実的な施策を導入すべきであるとの見方をしている。その観点から同氏は、左派の支持を受けたサンダース氏の施策が党派対立を強めることを懸念している。党派対立が強まり、議会を通さずにリベラルな施策を強行すれば、政権交代の際にすべてひっくり返されることになるからである。

■ トランプ大統領再選の場合はどうなるか?

本稿では民主党の候補者の公約を中心に論じてきたが、当然のことながらトランプ大統領再選の可能性も十分ある。第二期トランプ政権において温暖化問題に冷淡なこれまでのポジションに変化がみられるかについては、「次は選挙を戦わなくてもよいので、政治的レガシーを残すため、温暖化に対して以前よりも積極的なポジションを示す」との希望的観測も一部にある。

過去には、京都議定書から離脱したブッシュ政権が第二期において、温暖化問題を議論するため、主要経済国会合をホストしたり、革新的技術開発への予算支出を増やす等、第一期に比して前向きな姿勢を示したことは事実だ。また米国の若年層の間で気候変動に対する問題意識が高まっているなかで、現在のようなポジションを続けることは共和党の将来に禍根を残すという議論もある。しかし筆者がワシントンの有識者と議論した感じでは、トランプ大統領が考え方を変える可能性は高くないという見方の方が優勢であった。「共和党の将来への懸念」という論点は、共和党エスタブリッシュメントと無縁であるだけに、トランプ大統領には響かないともいわれている。

■ 日本へのインプリケーション

米国大統領選はこれからが正念場であり、結果については全く予断できるものではない。しかし民主党政権が誕生すれば、米国の温暖化政策が大きく変わることは確実であり、日本にもさまざまな影響が及ぶことになろう。サンダース氏の施策は環境原理主義のEU以上に原理主義的であり、米国のシェールオイル、シェールガス輸出が禁止されれば世界のエネルギー市場にも大きな影響が出るだろう。バイデン前副大統領の炭素国境調整措置がどのような形態をとるかわからないが、米欧で何らかの炭素国境調整措置のアライアンスができれば、国際貿易秩序にも大きな影響を及ぼす。当然、中国やインドはそうした動きに激しく反発するだろうし、貿易戦争の引き金になる可能性もある。またバイデン氏は石炭関連技術の輸出に批判的であり、日本が行っている高効率石炭火力輸出にも停止圧力がかかるだろう。温暖化に消極的なトランプ政権のおかげ(?)で日本は欧州と米国の中間の立ち位置を取り得たが、民主党政権が誕生すれば日本の立ち位置は難しくなる。

他方、中国の台頭に対する危機感は超党派で共有されている。中国が再エネ最大投資国として国際的にいい格好をする一方、一帯一路のもと石炭火力輸出でもうけるといった「いいとこ取り」を許さないという機運も高まるかもしれない。今回、民主党政権が誕生するかどうかはわからないが、いずれは政権交代が生ずると考えておいた方がよい。民主党候補の温暖化綱領に影響を与えている有識者、シンクタンク等とのネットワークを構築し、頭の体操をしておくことが必要ではないか。

【21世紀政策研究所】

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