1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2020年4月2日 No.3449
  5. PeOPLeが実現する新しい社会とヘルスケア

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年4月2日 No.3449 PeOPLeが実現する新しい社会とヘルスケア -イノベーション委員会ヘルステック戦略検討会

経団連は3月4日、イノベーション委員会ヘルステック戦略検討会を開催(オンライン)し、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の宮田裕章教授から、「PeOPLe(注)が実現する新しい社会とヘルスケア」をテーマに説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ デジタル革新の波

デジタル革新の強烈な波は金融からきている。中国では、顧客データに加え、さまざまなデータを多角的に用いて融資判断を行い、信用評価損益率(信用取引の買建を行っている人がどれくらい含み損益を抱えているかの指標)を劇的に改善したというケースもある。

26歳の起業家リテシュ・アガルワル氏が創業したOYOグループは、小規模ホテルの内装改装から始め、データを用いた価格設定や顧客連携を実装するサービスを展開。急激に成長している。中国の平安保険はアプリの提供を通して予防行動をサポートし、よい医療を受けることができるような体験のデザインを行い、世界一の規模の生命保険会社に成長した。

こうした潮流のなか、ものづくりという視点のみでは勝ち目がない。これまでのデータ分析は集団をみるものだったが、大規模なパーソナルデータとAI分析を用いることにより、個人を軸に価値を提供していくことが可能となった。

これまで、パーソナルデータは企業や国のものだったが、DFFT(Data Free Flow with Trust)を日本が提唱した。データに対する考え方も1年で激変してきており、人々の信頼を得なければプラットフォーマーであってもデータを活用できないという認識が高まった。こうしたなかで、データの価値を万人が理解できるヘルスケア分野は、信頼に基づいたデータ活用の道を拓くうえでも、多くの企業に注目されている。

■ PeOPLe

パーソナルデータも含めた活用をどう進めるか。厚生労働省の懇談会でPeOPLeというコンセプトを3年半前に提案した。国際的には相互運用性を確保して、情報をつないでいこうという議論になっている。FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)という国際標準に乗せるかたちで、アメリカの第2位のベンダー、Cernerはフルクラウドで電子カルテシステムをつくっている。

政府では、厚労省のデータヘルス改革本部が動いている。ここにきて、2年以内にマイナポータルを通じて特定健診等のデータを個人に返す仕組みの見通しが発表された。理想的なものができるまで待つ必要はない。個人を軸にしたデータ構造と、相互運用可能性を確保することで、今後データベース間で連携することも可能である。

■ 新しい社会とヘルスケア

ヘルスケアの考え方が変わってきた。病気になった後に医療を提供するだけでは高齢化社会は乗り越えられない。健康な段階、10年、20年前からのアプローチも必要である。90歳まで元気な人が増えれば、高齢化社会を乗り越える可能性もみえてくる。まずは個人による健康管理があって、限られた条件で病院を使うモデルに変えていく。新型コロナウイルスの対応もこのモデルである。さまざまな疾患に対しても同じ対応をする必要が出てくる。その過程で、個人の情報格差もデジタルで埋めていく。がんの再発管理をITで行ったり、禁煙サポートをアプリで行ったりなど、新しい取り組みも出てきた。

■ 今後に向けて

「健康に」というメッセージをどう個人に届けるか。仕事と結びつけたり、エンタメを一緒に楽しんだりすることが一つのカギ。「ポケモンGO」は好例だ。おいしいもの、自然を楽しむ、名所旧跡を楽しむ。健康や医療と連動しながらプラットフォームを構築することにより、さまざまな取り組みの社会的価値を示すことができる。産学官のさまざまな関係者と協力し、新しい健康・医療を共創することがカギである。

(注)PeOPLe(Person-centered Open PLatform for wellbeing、ピープル)=厚生労働大臣のもと設置された「保健医療分野におけるICT活用推進懇談会」の報告書(2016年10月)で提唱された、政府の次世代の医療・健康情報インフラとして計画されている基盤の仮称

<参考>

3月5日に、神奈川県の顧問も務める宮田氏を中心に、LINE、神奈川県の協力のもと、「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」を立ち上げています。ぜひ、ご活用ください。
※ https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/bukanshi/line/index.html

【産業技術本部】

「2020年4月2日 No.3449」一覧はこちら