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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年5月14日 No.3452 新型肺炎(コロナウイルス)問題とアメリカ政治<1> 2020米大統領選挙と新型肺炎問題 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 久保文明

久保研究主幹

2020年大統領選において、トランプ大統領は基本的にはやや苦しい戦いを強いられている。現職の強みはあるものの、多くの世論調査において支持率は民主党のバイデン候補にリードされている。

トランプ大統領の場合、再選の大きなハードルとなるのは、トランプ氏再選に対する強い拒否反応である。19年12月のNBCニュース/ウォールストリートジャーナルの調査では、「断固再選支持」34%に対し、「断固民主党候補ないしトランプ以外に投票」が48%となっている(「わからない」は18%)。要するにトランプ氏には投票しないとすでに決めている人の割合は(調査によっては「おそらく」という限定付きの回答も含めて)52%から60%の水準となっている。むろん、選挙はトランプ大統領のみを対象にしてその是非を問うものではなく、相手候補との相対的評価で選択がなされるため、この数字をもってトランプ氏苦戦と断ずることは必ずしも適当でない。にもかかわらず、トランプ大統領にとって芳しくない数字であることは確かであろう。

そこに降って湧いてきたのが、コロナウイルスによる新型肺炎問題である。この問題の影響は複雑である。明らかにトランプ大統領再選に不利な要素としては、経済に対する衝撃である。特に株価の下落はすさまじく、トランプ政権発足以来の株価上昇分が一瞬にして消滅してしまった。政策ごとの支持率のなかで唯一50%を超えていたのが経済政策であっただけに、トランプ大統領にとっては大変な痛手である。また、新型肺炎の流行そのものに対しても、当初はホワイトハウスによる過度の楽観視・軽視が目立った。「完全に事態を制御している」あるいは「伝染病は近いうちに魔法のように消えてなくなる」という発言がなされ、2月まではほぼ無策であった。この間に感染がニューヨーク等で広まっていたとの見方は根強く存在する。

トランプ大統領には岩盤のような支持基盤が存在するとの指摘もある。確かに弾劾裁判にまで発展するような問題を抱えながらも支持率の下限は37%程度であった。しかし、われわれはG・W・ブッシュ大統領が直面した05年のハリケーン・カトリーナ問題を忘れてはならない。この問題への対応に失敗した後、ブッシュ大統領の支持率は30%台を割り込んだ。トランプ大統領にも同様の危険がないとは断言できない。

その後、3月半ばから、いくつかの大きな変化が起きた。第一は、トランプ大統領自身の態度が豹変し、正面からコロナウイルス危機に対応するようになったことである。演説会ができなくなった埋め合わせとして毎日、記者会見で「独演会」を開催した。そして2兆ドルという巨額の経済対策も成立させた(その後追加措置も成立)。第二に、この危機を戦時に例え、自分を「戦時大統領」と規定した。これは重要な含意をもつ。アメリカでは、ジョン・F・ケネディ大統領による1961年のピッグズ湾事件のように、完全に失敗に終わった事件においてすら、国家的危機の際には国民はほぼ無条件に大統領を支持する傾向がある。2001年9月11日の同時多発テロ後にブッシュ大統領の支持率が90%前後に達したのもその例である。3月後半、トランプ大統領の支持率も多くの世論調査で49%あるいは50%など、就任以来の最高値を示した。支持率はすでに下がった世論調査の方が多いが、ギャラップの調査では49%の水準を維持している(5月7日現在)。

同大統領の記者会見での発言は、相変わらず専門家への敬意を欠いたもの、あるいは的外れなものが多い。消毒剤を注射すればすぐに治るという発言はその代表例であろう。この後、大統領は毎日の記者会見を中止した。

ただし、今年11月の投票日までにアメリカは新型肺炎を克服している可能性もあり、その場合にはトランプ大統領は自ら定義するところの「戦勝大統領」の栄光に包まれることになろう。また、経済活動の再開を求める強い要望もあり、これがトランプ大統領の支持率を押し上げるだろう。

以上は、米大統領選挙の現状のごく大雑把な素描にすぎない。次回以降、新型肺炎問題を軸に、選挙戦の展開、医療制度、外交的含意、州知事の役割、戦時大統領制、エネルギー問題、そして宗教など、アメリカ政治のさまざまな側面との関係について8回にわたり分析していく。

【21世紀政策研究所】

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