Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年6月11日 No.3456  日本の製造業のDXについて聞く -サプライチェーン委員会

経団連のサプライチェーン委員会(立石文雄委員長)は5月21日、オンラインで会合を開催。慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也教授から、日本の製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について説明を聞くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ 中小企業のIoT人材の育成

日本の中小企業でIoT化が進んでこなかった要因の一つとして、企業内のIT人材の不足が挙げられる。そこで、本学のソーシャル・ファブリケーション・ラボでは2018年から、入社3~9年目の社会人を主な対象として、「ファクトリーサイエンティスト」(自作のデバイスによるIoT化で中小工場の生産性向上が可能な人材)の育成カリキュラムを提供している。

カリキュラムのなかでは、受講者がセンサーの設置方法、3Dプリンターの扱い方、データの見せ方、スマートフォンとの連携方法等を学んだうえで、自社の工場の課題を解決するシステムを受講者自ら作成している。このカリキュラムで開発されたシステムが実際に工場内で使用されているケースもある。

19年度は合宿講座により20人を育成しており、今年はさらなる拡大に向けて、「ファクトリーサイエンティスト協会」を立ち上げた。20年度は、計200人の育成とe-ラーニング・遠隔講座の立ち上げを目標としている。

■ 3Dプリンターによる製造業の変革

3Dプリンターは1990年代から徐々に普及し、2010年代前半から大きく注目されるようになった。当初は試作品作成が主な用途であったが、ここ数年間で品質、使用材料、速度の面で性能が大きく向上し、サングラス、靴などの最終製品を作って販売できるようにまでなった。新型コロナウイルスの蔓延を受けて、医療用のフェースシールドが不足し、世界中の3Dプリンターユーザーが自宅の3Dプリンターを使って作成し近隣の病院に届けるという活動が行われている。

こうした3Dプリンティング技術の発達により、製造業のグローバルサプライチェーンは大きく変わると予想される。これまでは世界中を物質が駆け巡り、最終的には使われた物質が使用された国で捨てられ、循環型ではなかった。3Dプリンターによって、移動するのは物質ではなくてむしろ3Dプリンターに出力する設計図等の情報になる。物質は輸送されるというよりは、地域のなかで循環される。製造業の国内回帰が進むだろう。

さらに、3Dプリンターはこれまで使うことのできなかった特殊な材料・構造を採用することができ、パンクしないタイヤなど新たな製品を作ることもできる。このように、製品の一部品だけではなく、製品全体を再設計してよりよいものを必要な場所で作る「プロダクト再錬成」の考え方が今後主流になっていくだろう。そのためには、3Dプリンターによる製造のカギとなる新しい設計技術や標準化を日本としても主導していく必要がある。

【産業政策本部】