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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年6月18日 No.3457 新型コロナウイルス対策における党派対立の背景 -ワシントン・リポート<76>

総額2.2兆ドルのコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES)が3月27日に成立して以来、連邦議会では次なる新型コロナウイルス危機経済対策法案(対策法案)の内容に注目が集まっている。目下、上院多数の共和党と下院多数の民主党がそれぞれ譲れないのが企業の免責条項と連邦政府による州政府支援である。この2点は表面的には今回の新型コロナ対策をめぐる対立ではあるが、実際には長年の両党の政治原理と支持基盤の違いを反映している。

■ 企業の免責条項

マコーネル上院共和党院内総務は、4月28日の時点ですでに次の対策法案に訴訟の免責条項を含むことを譲れない「red line」と位置づけた。従業員や顧客からの訴訟を懸念して企業が活動再開を渋り、経済回復に水を差すことを警戒している。一方、ペロシ下院議長率いる民主党は、免責条項は従業員をより危険な労働環境にさらすため、従業員への保護は弱めるのではなく強化すべきだと主張。双方の利益団体による代表対決の様相となっている。

賛成派の旗手は全米商工会議所で、反対派の中心は法廷弁護士団体であるAmerican Association for Justice(AAJ)である。訴訟問題は長年経済政策における両党の代表的対立軸の一つで、共和党と経済団体は軽薄な訴訟の予防策として企業保護の必要性を説いてきた。全米商工会議所は2020年選挙に向けた連邦議員候補への献金の80%を共和党に拠出している。一方、従業員や顧客が企業を訴える権利の確保を主張する法廷弁護士団体は民主党の支持基盤の一つであり、AAJは連邦議員候補への献金の97%を民主党に拠出している。

■ 連邦政府による州政府支援

逆に民主党が強く推進しているのが州・地方自治体支援で、5月15日に下院で可決した3兆ドルの対策法案にも1兆ドル弱盛り込んでいる。民主党は、新型コロナの影響による税収減や失業手当給付のために財政難に陥った州や自治体を連邦政府が支援し、警察官、救急隊員、教師などの大幅人員削減を防ぐべきだと主張する。

一方、共和党は、最も深刻な州の財政難の原因は別にあり、年金積立不足などの長年の無責任さをも救済することになると反対している。ただし、共和党内にも新型コロナ対策の範囲内に限定した支援は必要との認識はある。

地方に対する考え方も両党対立の根幹の一つで、民主党は強力な連邦政府による中央集権を望み、州政府の連邦政府への依存度上昇を歓迎するが、共和党は州政府の自治権限を重視し、健全な州の住民に破綻のおそれのある州の尻拭いをさせることは不公平としている。

■ 政治原理へのこだわりに対する懸念

この非常事態に直面してもなお政治原理に縛られる両党に対する懸念の声も上がっている。

National Affairs誌は、対策法案の議論がここまで従来の党派色に染まっていることは、連邦議会の考え方がこの危機における国民の現実からの乖離を示唆し、現実の課題への対応を模索すべき時に反射的に党派的動きに戻ることは危機解消の妨げにしかならないと警告している。

【米国事務所】

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