Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年9月3日 No.3466  第119回経団連労働法フォーラム -報告Ⅰ「職場のハラスメント防止に向けた法的留意点と企業の対応」/弁護士 渡邊徹氏(弁護士法人淀屋橋・山上合同)

渡邊弁護士

経団連および経団連事業サービスは7月28、29の両日、経営法曹会議の協賛により「第119回経団連労働法フォーラム」をオンラインで開催した(8月6日号既報)。1日目は、「職場のハラスメント防止に向けた法的留意点と企業の対応」について、関連する法律や裁判例をもとに企業実務上の対応策を経営法曹会議所属の弁護士が報告した。
(2日目については次号掲載

■ 法改正の内容・目的

6月1日に施行された改正労働施策総合推進法は、事業主に対するパワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務を新設し、これに伴い、セクシュアルハラスメント、育児・介護に関するハラスメント等の防止対策も統一的に強化された。企業としては、微妙なケースがパワハラに該当するか否かを過度に意識する必要はないが、申し出があった事実を重く受け止め、背景、原因解明を怠らず、再発・未然防止に努めることが重要である。

■ 雇用管理上の措置義務

改正法は、パワーハラスメントの要件を定めたうえ、企業に雇用管理上の措置を義務付けた。あわせて、経営者や労働者等に対する責務規定をおき、概括的にハラスメントを禁止した。雇用管理上の措置内容は、指針において、事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発、相談・苦情に適切に対応する体制整備、事後の迅速かつ適切な対応や、それらとあわせて講ずべき措置(プライバシー保護、相談等による不利益取り扱いの禁止と周知・啓発)が示された。パワーハラスメント紛争が調停の対象とされたこと、措置義務違反に対して、労働局は助言、指導、勧告等が可能となったこと、さらには勧告に違反した場合、企業名公表の対象となることから、実務上、相当のインパクトがあると考える。なお、是正指導・勧告の対象は措置義務違反の有無であり、行政がパワーハラスメントの有無を認定するわけではない。

■ カスタマーハラスメント

カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)は、その種類により、法的扱いは異なる。例えば、セクシュアルハラスメントを伴う場合、措置義務(自社の社員が被害者)や、措置協力努力義務(自社の社員が加害者)が求められる。他方、パワーハラスメントを伴う場合は、指針で望ましい取り組みが要請されるにとどまる。しかし、対応が不適切であれば、安全配慮義務や就業環境配慮義務との関係において、違法とされるリスクはあり、ケースを問わず、企業は対応する必要がある。

■ 精神障害に対する労災認定基準の見直し

ハラスメントに関する法改正に伴い、精神障害に対する労災認定基準についても見直しが行われ、6月1日から施行された。「業務による心理的負荷評価表」に「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を新設し、パワーハラスメントによる「具体的出来事」を追加して影響度を決定する。平均的な心理的負荷は、最も強度の高い「Ⅲ」とするのが相当とされた。

<質疑応答・討論>

質疑応答・討論では、改正法や指針の内容に沿った相談窓口の整備、就業規則の見直し、ヒアリング実施時の注意点等に始まり、就活生等へのセクシュアルハラスメント、カスタマーハラスメント、新型コロナウイルス感染症にかかわるハラスメントや、在宅勤務の拡大により生じたリモートハラスメント、LGBTへの対応等、多様な質問が寄せられた。弁護士間で時に、相反する論戦が展開されながら、闊達な議論と、企業の実態に即したアドバイスがなされた。

【労働法制本部】