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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年11月12日 No.3475 EUの炭素国境調整措置<中> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

■ パブリック・コメントではさまざまな意見

今年3月4日から4月1日のコメント期間中にEU内外の企業、ビジネス団体、大学・研究機関、消費者団体、NGO等から219のコメントが寄せられた。興味深いのは欧州内でもさまざまな見方があることだ。環境NGOはそもそも炭素リーケージの存在、したがって炭素国境調整措置の必要性にも疑問を持っており、導入するならばEU-ETS(EU排出量取引制度)の無償配賦を廃止すべきであると主張している。

他方、炭素国境調整措置の対象セクターになる可能性の高い鉄鋼業界は炭素国境調整措置の導入と引き換えにEU-ETSの無償配賦を廃止することに反対している。同じく対象セクターとなる可能性の高いセメント業界も同様のコメントをしている。

これに対し、ドイツ自動車工業会、ドイツ商工会議所等は、そもそもWTOとの整合性、報復措置の懸念、CO2含有量の計算の難しさ等を理由に、炭素国境調整措置に懐疑的なコメントをしている。炭素国境調整措置が導入されれば、炭素集約度の高いエネルギー構成を有する中国、インドからの輸出品は間違いなく対象になるだろうが、対中輸出に大きく依存しているドイツの産業界が、中国からの対抗措置を懸念していることがわかる。

また米国の環境シンクタンクは価格が変動するEU-ETSとリンクして炭素国境調整措置を導入することがWTO上適切なのかという問題提起をしている。EU域内に統一的な炭素税を導入すれば、炭素含有量の計算の難しさという技術上の問題は残るとしても、炭素国境調整措置導入の正当性は主張しやすいであろうが、それができないからこそEU-ETSが導入され、無償配賦が実施されてきたのであり、EUワイドの炭素税のハードルは高い。

■ 国境調整措置の制度設計デザイン

国境調整措置の具体的な案は2021年に出てくるとされているが、欧州の非営利団体であるERCST(気候変動と持続可能な転換に関する欧州ラウンドテーブル)が米国、ロシア、日本、インド等の有識者と炭素国境調整措置に関するタウンホールミーティングを行っており、筆者も経団連の有識者と共に参加した。

ERCSTは8つの要素(貿易フローのカバレッジ、政策メカニズム、地理的スコープ、セクタースコープ、排出スコープ、体化されたCO2排出の算定方法、調整額の計算、歳入の使途)に基づき制度設計のオプションを示すとともに、これを5つの観点(環境面の便益、競争面の便益、法的フィージビリティ、技術面・運営面のフィージビリティ、政治的フィージビリティ)から評価している。ERCSTが最も可能性が高いとしているのは、基礎素材、電力の輸入のみを対象として、EU-ETSを拡張し、EU平均値をベンチマークとして体化された排出量を計算し、歳入を域内のイノベーション基金に充て、途上国配慮としてLDC(後発開発途上国)を除外するというものである。

【21世紀政策研究所】

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