Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年8月4日 No.3555  全世代型社会保障の構築に向けて -人口問題委員会・社会保障委員会

山崎氏(左)、中村氏

経団連の人口問題委員会(永野毅委員長、清水博委員長、井上和幸委員長)と社会保障委員会(小堀秀毅委員長、根岸秋男委員長)は7月15日、全世代型社会保障の構築に向けた政府の検討状況に関する合同説明会をオンラインで開催した。内閣官房全世代型社会保障構築本部事務局の山崎史郎総括事務局長ならびに中村博治事務局長(厚生労働省政策統括官〈総合政策担当〉)から、全世代型社会保障の構築に向けた子ども政策や医療分野等の政府内の取り組み状況について、それぞれ説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ 人口減少と全世代型社会保障(山崎氏)

わが国の生産年齢人口は今後2040年にかけて、2割(約1500万人)減少する。「全世代型社会保障」では、40年を視野に、人口減少を正面からとらえたビジョンを示したい。

今後、ジェットコースターのように人口が減るなかで、「昔の日本に戻るだけ」「労働生産性を高めればよい」という意見もある。労働生産性の引き上げは重要だが、人口減少と高齢化が同時に進み、内需を支える消費マーケット自体が縮小していくと、国内への投資、ひいてはイノベーションの創出も減少することが大変危惧される。人口減少をなんとか緩和させていく必要がある。

スウェーデンでは、出生率低下に対して、すべての子どもの出産・育児を国が支援する「普遍的福祉政策」を推進し、1974年に「両親保険」を導入した。ドイツも、スウェーデンを参考に、2000年代に育休と保育改革を実現し、出生率が11年の1.36から16年に1.60まで急回復した。

少子化対策のカギは「若い世代が仕事と子育てを両立できるか」である。若い世代は仕事か子育てかの二者択一を迫られ、子どもを持つことを経済的リスクととらえているとされる。

例えば、わが国では出産退職者が多く、その場合、育休給付は支給されず収入が減少するため、「ゼロ歳児保育」を利用して再び働き始めるケースも多い。

スウェーデンのように、すべての親を育休給付の対象とすることにすれば、出産による収入減少を防ぎ、保育現場の負担も軽減することが可能となる。

加えて、0~2歳児のうち、育休も保育サービスも全く利用できていないケースが140万人もいる。一時預かりなどサービスメニューはそろっているが、利用できる量が非常に少ない。子育て支援給付を保障する観点からも、財源確保の仕組みが必要である。

社会保険、拠出金、税といったさまざまな手段が考えられるなか、消費税率引き上げはなかなか難しいとされる。普遍的な子育て支援制度を実現するための財源については、今後、経済界とも議論したい。人口の急減を緩和させるためにも少子化対策は急務である。

■ 医療等をめぐる今後の動向(中村氏)

医療・介護分野は、骨太方針2022等を踏まえ、年末にかけて、大きく三つの対応を想定している。

一つ目は、次の感染症危機に備えるための対応についてである。政府の新型コロナウイルス感染症対策本部では、22年6月に、これまでの新型コロナ対応を客観的に評価し、必要な対応策を取りまとめた。今後は、政府の司令塔機能の強化、感染症に対応する保健医療体制の構築等に向けて、法律改正を含め迅速に対応していく。

二つ目は、全世代型社会保障の構築に向けた取り組みについてである。全世代型社会保障構築会議の議論の中間整理では、今後の高齢化の進展やサービス提供人材の不足を踏まえ、医療・介護提供体制の改革や社会保障制度基盤の強化等の必要性を示した。今後、こうした取り組みにかかる短期と中長期の課題を整理し、改革事項を工程化していく。現役世代の保険料負担が大きく増加しているなか、給付と負担の議論も避けては通れない。

三つ目は、社会保障分野における経済・財政一体改革についてである。医療・介護費の適正化を進めるとともに、医療分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)を強力に進めていく観点から、23年4月から、保険医療機関・薬局に対するオンライン資格確認の導入の原則義務化、電子カルテ情報の標準化等を進めていく必要がある。

全世代型社会保障の構築に向けて、引き続き、経済界と密接に意見交換していきたい。

【経済政策本部】