経団連は11月10日、オンラインセミナー「大手企業、ヘルスケア事業参入の機会」をBeyond Next Venturesと共催した。概要は次のとおり。

■ 経団連・小川尚子 産業技術本部長

経団連はSociety 5.0を活動の柱として掲げている。その実現にはデジタルをはじめとした最新技術の活用がカギとなる。ヘルスケアは、デジタルなど新しい技術を活かせる分野であり、多様な人々のウェルビーイングの向上につながる。業種を超えてさまざまな主体が連携し、デジタル技術を活用した新しいヘルスケアの提供が進むことを期待する。

■ アイリス・加藤浩晃 共同創業者・取締役CSO

IoTやAI、ビッグデータを用いた技術革新による「第4次産業革命」から、新型コロナウイルスの流行下でのリモート対応を経て、医療・ヘルスケアは大きく変化するタイミングにある。予防から診断・治療に至るさまざまな場面で、デジタルテクノロジーを活用した医療・ヘルスケアサービスが求められている。デジタルヘルス元年と呼ばれた2010年当時は、制度が未整備だった。その後、政府内の組織体制や制度の整備に加え、最新テクノロジーの開発が進んだことで、日本のデジタルヘルスは社会実装のフェーズに入っている。大企業やベンチャーの連携、異業種企業の参入も増えている。オンライン診療やPHR（Personal Health Record）の浸透、フェムテック^（注1）の興隆、医療AIの進化など、デジタルヘルスは今後も大きく動いていく。

■ Beyond Next Ventures・橋爪克弥 Executive Officer／Partner

日本は海外と比較して新たな産業が創出されていない。ユニコーン^（注2）の創出や、ベンチャーキャピタル（VC）投資額も諸外国に比べて圧倒的に少ない。しかし、状況は改善しつつある。国内スタートアップの資金調達額は、ここ10年で約10倍に増加した。22年に入りロシア・ウクライナ問題で投資が冷え込んだ諸外国と比べても、日本は堅調なペースで調達額が増加している。特にスタートアップによる医療イノベーションが調達額の増加をリードしている。

デジタルセラピューティクス（アプリなどの活用を通じたデジタル治療）における国内のIPOやM＆Aの事例も出てきた。デジタルヘルスのトレンドは、治療から重症化予防・早期診断へとシフトしており、個別化医療や、医療従事者の負担軽減等が新たなキーワードとなっている。デジタルトランスフォーメーション（DX）、AI、センサー、ロボティクスなどの進化に伴い、「フィジカル」と「デジタル」の融合がさらに進むと考える。

■ 住友商事・石橋泰徳 メディカルサイエンス部長

住友商事では、ヘルスケアを次世代成長戦略のテーマの一つに設定し、同分野における事業を中長期的に強化・育成する方針を明確に示している。ヘルスケア事業の構築には時間がかかるため、目指すゴールを30年に設定し、そこからバックキャストして活動する。治療用アプリに関しては、個々に開発・上市するだけでなく、アカデミアやスタートアップの有する価値が高まるよう、住友商事が有する事業会社と組み合わせて新たなマーケティングを行うなど、既存のアセットとのシナジーを意識している。具体的には、SNSやオウンドメディアの立ち上げによる疾患情報の掲載、リアル店舗の薬局を活用した疾患の早期発見などが挙げられる。デジタル治療とオンライン診療・服薬指導との親和性は高い。これらを組み合わせて、より利便性の高い新しい医療サービスをつくっていきたい。将来的にはグローバルに展開することも視野に入れている。

■ KDDI・田口健太 ヘルスケア事業推進部シニアエキスパート

KDDIの中期計画では、5Gによる通信事業を核としながら、注力する領域の一つとしてヘルスケア事業を打ち出している。健康・未病の先の医療のサービス開発では、スタートアップとの資本提携・業務提携を軸としている。その際、「新しいデジタルな健康・医療サービスをより多くの方々に体験してもらい社会実装までもっていく」ことを意識している。スタートアップの先鋭的なサービスをより多くの方々に届けることが重要な役目と認識している。協業する際には、自社の強みを常に意識して、相互に補完し合う関係の構築を目指す。KDDIの強みは「顧客基盤」「通信・デジタル技術」「プラットフォームによる統合」である。コーポレートベンチャーキャピタル（CVC）による投資に際しても、財務リターンと戦略リターンとを総合的に判断したうえで実施する。スタートアップ側には、事業シナジー（相互補完）を実現する「ストーリー型の提案」を期待している。

【産業技術本部】