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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年11月16日 No.3613 バイデン大統領とねじれ議会~中間選挙前後で政権運営はどう変わったのか -21世紀政策研究所 解説シリーズ/バイデン政権「前半戦」の分析と今後の展望<5>
/21世紀政策研究所研究委員(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 梅川健

2020年の大統領選勝利でスタートしたバイデン政権は22年11月の中間選挙を経て「後半戦」に入った。本解説シリーズでは、21世紀政策研究所(十倉雅和会長)米国研究プロジェクトメンバーが、バイデン政権の「前半戦」における主要政策の動向や米国民主主義の現状に関する分析に加え、来たる24年大統領選の展望について8回にわたり連載する。

梅川研究委員

バイデン大統領が21年1月に大統領に就任した際、上下両院は民主党が多数派を占めていた。22年の中間選挙によって、民主党は下院の多数派を失った。現在の状況はバイデン大統領の任期終わりまで続く。

米国では、大統領の所属政党と、上下両院の多数派が同じ場合には統一政府、上下両院のどちらかでも多数派が異なる場合には分割政府と呼ぶ。後者は日本風にいえば「ねじれ議会」となる。ただし日本との違いもある。日本のねじれ国会は、衆参両議院の多数派が異なる場合をいうが、衆議院の多数派の支持がなければ内閣は倒れる。他方で米国の場合、上下両院の多数派が大統領の所属政党と異なっても政権は続く。大統領と議会は別々に選出され、互いに責任を負わない大統領制を採用しているためである。

23年1月からバイデン大統領が直面する「ねじれ議会」は、上院の多数派を民主党が占めているだけましともいえる(高官人事の承認は上院の専権事項)が、法律の制定という政策変更の王道は滞っている。21年から22年にかけての統一政府状況では、365本の法律が制定されたが、ねじれ議会となった23年1月から10月現在にかけて成立した法律は19本にすぎない。現在の連邦議会は25年1月まで続くものの、統一政府下のように法律が成立する見込みはない。

バイデン大統領は民主党多数議会に支えられた最初の2年間、高い立法成果を挙げた。数のうえで突出しているわけではないが、質的に重要な法律がいくつも制定された。21年には新型コロナウイルス対応のための米国救済法、1兆ドル規模の財政支出を伴う超党派インフラ投資法が制定され、22年にはインフレ抑制法とCHIPSおよび科学法が制定されている。

これらの立法にあたり、民主党は上院と下院で僅差で多数を維持していたにすぎない。上院では民主党50議席、共和党50議席の同数(ただし同数の場合は副大統領が1票を投じるという規定により民主党多数)、下院では民主党222議席、共和党211議席という拮抗状態だった。この僅差を立法成果につなげることができたという点で、バイデン大統領の最初の2年間は評価されてよい。もちろん、バイデン大統領に失敗がなかったわけではない。22年8月に大統領令として打ち出した連邦学生ローンの返済免除措置は共和党からの反対にあい、最終的には連邦最高裁によって取り消されることになった。

バイデン政権の政策実現能力は、22年の中間選挙で下院の多数派を失って以降、著しく低下した。下院共和党はバイデン大統領の政策を積極的に進めることはなかった。問題は、23年10月から始まる24会計年度予算法さえ成立していないことである。米国では予算は法律のかたちで成立するので、議会は予算法案を作成・審議し、大統領に署名を求める必要がある。しかし23年は予算法制定が間に合わなかった。そこで、正式な予算法が出来上がるまでの「つなぎ予算」を9月30日になんとか成立させたが、その期限も11月17日までであり、それまでに次のつなぎ予算か、正式な予算を成立させない限り、政府閉鎖に陥る危険性がある。

膠着した議会は、米国の外交・安全保障政策にも影響を及ぼしている。ウクライナ支援については下院の共和党保守派(トランプ派)が消極的であり、今後の予算の行方が心配されている。他方、イスラエルについては民主党左派のなかに親パレスチナの立場をとる議員がいることから、バイデン大統領の政権運営の課題となり得る。

※ 論考全文はウェブサイトを参照
時事解説「バイデン政権『前半戦』の分析と今後の展望」<第5回>
http://www.21ppi.org/theme/usa/index.html

【21世紀政策研究所】

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