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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2024年1月11日 No.3620 プラチナ社会の実現とAIの活用 -イノベーション委員会

小宮山氏

経団連は12月13日、都内でイノベーション委員会(安川健司委員長、稲垣精二委員長、田中孝司委員長)を開催した。科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)(注)の小宮山宏理事長(三菱総合研究所理事長)から、プラチナ社会の実現とAIについて説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ プラチナ社会とは

現在は人類史の転換期にある。20世紀まで無限と思われていた地球は、気候変動や資源の枯渇などの環境・エネルギー問題にさらされ、今や「有限の地球」といわれている。また、20世紀以降、平均寿命が急伸して人類の長寿化が起きるとともに、知識も爆発的に増えてきている。

このような転換期にあるわれわれが目指すべきは、地球が持続し、豊かで、人の自己実現を可能にする「プラチナ社会」である。プラチナ社会の実現に向けて、一般社団法人プラチナ構想ネットワークでは、152の法人と220の自治体(2023年12月1日現在)と共に、健康や環境・エネルギー等、さまざまな課題の解決に向けた活動を展開している。

■ プラチナ社会の実現に向けた具体的活動

具体的な活動事例としては、少子化を克服するための北海道大学と岩見沢市の取り組みがある。妊婦の健康データをビッグデータと比較し、食と健康に関するアドバイスを行ったところ、2500グラム未満の低出生体重児の割合をたった4年間で10.4%から6.3%に下げることができた。病気の治療ではないことから規制が少なく、AIの社会実装がしやすかったのが成功の一因である。

また、日本の林業は働き手不足や1ヘクタール当たりの収入が10万円と少ないなど課題が山積していることから、産学官等で連携して「プラチナ森林産業イニシアティブ」を設立した。これまで林業の生産性の向上と大規模化、外材から国産材への活用シフト、木質バイオマスエネルギーの利用、木造需要の拡大など上流から下流まで包括的に取り組んできた。また、山林の所有者が不明なことが企業が林業への出資を渋る原因となっているため、東京大学発のベンチャー企業とともにAIを活用した解決法も考案している。

このほか、林業と発電では土地当たりの経済性が200倍違い、伐採地や耕作放棄地での太陽光発電は経済性に大きく資することから、第1次産業と再生可能エネルギーを掛け合わせた活動にも注力すべく「再生可能エネルギー産業イニシアティブ」の創設を検討している。

■ 強力な支援ツールとしてのAI

こうした活動においてAIが強力な支援ツールとなっている。23年に創立20周年を迎えたSTSフォーラム年次総会では、全体セッションのテーマを「AIの光と影」とし、医療健康、教育、データ活用などの分科会においてもAIを取り上げている。

そこで議論された生成AIの最大の影は、(1)依存しすぎると認知能力を低下させるおそれがあること(2)格差を拡大するおそれがあること(3)AIの進化のスピードについていけないおそれがあること――の三つである。AIを活用してイノベーションを実装するには、AIの光と影の両面の議論を経て、相互理解や合意形成を国際的に行っていく必要がある。その際、自国で開催してアジェンダを決め、リーダーシップをとることが重要である。日本が毎年主催する大規模な国際的イベントはSTSフォーラムの他に例がなく、国際的な認知度も高い。今後も活動を強化すべく国内外の若いリーダーにぜひ入ってきてほしい。

(注)学会・政界・財界のオピニオンリーダーが個人の立場で、科学技術の光と影を長期的視点から議論し、ネットワークを構築する国際会議。毎年10月に年次総会を開催している

【産業技術本部】

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