
小林氏
経団連は8月5日、東京・大手町の経団連会館で通商政策委員会(兵頭誠之委員長、吉田憲一郎委員長、磯野裕之委員長)を開催した。内閣官房TPP等政府対策本部の小林賢一首席交渉官から、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ CPTPPの概要とこれまでの経緯
CPTPPは、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が基礎になっている。日本のTPP加入交渉は2013年3月に始まった。当時はTPP参加を巡って国論を二分するといえるほど議論を呼んだ。交渉参加国には、経済規模が大きい日本のTPP参加は大きなインパクトがあると捉えられ、同年7月に日本のTPP交渉参加が正式に認められた。
TPP協定の実質合意は、15年の米国・アトランタ会合。つまり、ルールの内容が実質的に決まってから10年が経過していることになる。
16年2月、TPP協定への署名が成されたが、その後、第1期トランプ政権下で米国がTPPから離脱した。TPPは死んだとまでいわれたが、日本のリーダーシップのもと、17年3月から米国を除く11カ国(注)で議論を開始した。
CPTPPは18年3月に署名され、同年12月に発効した。日本は2番目に国内手続きを終了し、19年と21年に議長国を務めた。21年に加入を要請した英国は24年に締約国となり、現状12カ国で構成される。
■ CPTPP締約国との貿易動向
CPTPP締約国との貿易動向については、新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻、資源価格の変動、為替変動など、さまざまな外部要因の影響があるため、一概にCPTPPのみによって説明することはできないが、全体として貿易額は大きく増加している。
18年から24年にかけて、日本の輸出額は34%、輸入額は51%増加した。同期間の農林水産品の輸出額は、対世界全体向けが55%増、CPTPP締約国向けが103%増である。世界全体で貿易額が伸びるなか、特にCPTPP締約国への輸出額が増えている。
カナダとニュージーランドとの間では、それまで経済連携協定(EPA)がなかったこともあり、大きく輸出が増加した品目もある。
政府としては、CPTPPを企業にぜひ活用してもらいたいと考えている。企業を訪問してインタビューをすると、「CPTPPを契機として海外展開や輸出が増加した」との声がある一方、利用しない理由として「内容に詳しくない」との声もある。CPTPPの活用促進に向けて、要望があれば寄せてほしい。
■ 新規加入交渉と協定の見直し議論
新規加入については、オークランド三原則、すなわち(1)加入要請エコノミーがCPTPPの高い水準を満たす用意があること(2)貿易に関するコミットメントを遵守する行動を示してきていること(3)締約国のコンセンサス――を基に判断する。
英国は21年2月に加入を要請し、同年6月に加入作業部会が設置された。その際は日本が議長を務めて交渉が行われ、24年12月に加入議定書が発効した。
コスタリカは24年11月に加入作業部会が設置され、交渉中である。このほか、加入を要請しているエコノミーとして、エクアドル、ウルグアイ、ウクライナ、台湾、中国、インドネシアの六つのエコノミーがあり、次の交渉を始める国を検討中である。
TPPの大筋合意から10年が経過し、その間により進んだ内容を規定した協定も締結されている。コロナ等を契機としたサプライチェーン強靭化や貿易上の諸課題についても対応する必要があることなどを踏まえ、現在CPTPPの協定見直し作業を行っている。
24年から本格的に改正項目を特定する作業を行っているが、何を重視するかは国によって異なる。電子商取引、金融サービスのルールの見直しに前向きな国は多い。サプライチェーンの強靭化や貿易円滑化などへの関心も高い。ルールの見直しには至らずとも、それ以外の方法として大臣間の申し合わせ等で対応できるものは対応していく。
現在の国際情勢を背景に、EUやASEANとも対話を進めようとしている。方向性はまだ決まっていないが、具体的に深く話し合う可能性がある。
(注)メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシア、チリ、ブルネイ
【国際経済本部】