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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年11月6日 No.3704 シンポジウム「欧州情勢アップデート~政治・経済の変化と日本への含意」を開催 -経団連総合政策研究所

鶴岡氏

田中氏

伊藤特任研究主幹

経団連総合政策研究所(筒井義信会長)の欧州研究プロジェクト(特任研究主幹=伊藤さゆりニッセイ基礎研究所経済研究部常務理事)は10月10日、東京・大手町の経団連会館で、慶應義塾大学総合政策学部の鶴岡路人教授と第一生命経済研究所経済調査部の田中理首席エコノミストを招き、シンポジウム「欧州情勢アップデート~政治・経済の変化と日本への含意」を開催した。

前半は鶴岡氏、田中氏がそれぞれ講演。後半は伊藤特任研究主幹がモデレーターとなって、鶴岡・田中両氏と鼎談した。概要は次のとおり。

■ 激変する欧州安全保障、米欧関係と日本への含意(鶴岡氏)

第2次トランプ政権の発足後、米欧関係は揺れ動き、欧州は安全保障の自立に向けた動きを強めている。

6月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会合では、欧州側が王室外交を駆使し、トランプ大統領を歓待した。会合は形式的な成功を収めたが、欧州は同時に新たな安全保障戦略の構築に着手していた。

その動きの一環として、欧州委員会は2025年3月に「Readiness 2030」構想を発表した。過剰財政赤字手続きに4年間の例外措置を設け、防衛費を従来のGDP比2.0%から1.5%の上乗せを可能にし、最大3.5%まで拡充できる財政的柔軟性を認めた。

NATOのマルク・ルッテ事務総長はこの3.5%にインフラなど防衛安全保障関連費の1.5%を計上する「3.5+1.5」の2層構造を提案し、35年までにGDP比5%を漸進的に達成することをコミットした。

こうした欧州の動きは、米国の「自助努力を支援する」という姿勢とも呼応する。日本も中国の脅威を前に、日米同盟への依存を見直し、現実的な防衛戦略の再構築をすることが急務である。

■ 欧州の経済安全保障体制の強化と課題(田中氏)

EUは平和と自由貿易を基盤に統合を進めてきたが、ウクライナ侵攻やトランプ関税によりその根幹が揺らいでいる。フォン・デア・ライエン欧州委員長の第2期は、脱炭素と競争力の両立、防衛力強化を政策の柱としている。

ドイツは財政政策を転換し、インフラ、国防費への投資を拡大しており、ユーロ圏の成長率を押し上げる効果が期待される。一方、トランプ関税は15%で妥結し、懲罰的な報復は回避されたが、輸出減少は避けられない。

EUは自由貿易の秩序維持に向け、グローバルサウスやメルコスール(南米南部共同市場)等との連携を模索している。だが、政治的リーダーシップの不在や構造的課題、財政再建の遅れが足かせとなっている。

特にフランスの財政悪化は深刻で、国債利回りが上昇している。欧州復興基金の打ち切りを控え、資金調達が課題となる。民間資金の活用やユーロ高による資金回帰など前向きな動きも見られるが、改革推進力の弱さが懸念される。

ドラギレポートが示した競争力強化の処方箋はあるものの、実行力は伴っていない。

■ 鼎談

ロシア・ウクライナ戦争、米欧関係、フランス政治の混迷について議論が交わされた。

ロシア・ウクライナ戦争の長期化により、欧州は安全保障と経済の構造的転換を迫られている。支援は人道的感情ではなく、欧州の安全保障に直結する現実的判断に基づくが、ウクライナがEUに加盟するには依然課題が残ると指摘された。

国防支出の拡大は経済成長への効果が限定的であり、財政負担も懸念される。それでも、米欧間の防衛産業政策のすれ違いの深まりから、欧州は自立を模索している。フランス政治の混迷はEU全体に波及し、極右政党である国民連合(RN)の台頭が外交と財政の安定性を揺るがす可能性があると指摘された。

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