浜本氏
医療AIの開発と社会実装は、診断や治療の高度化、医療現場の負担軽減を通じて医療の質を大きく向上させるほか、新たな医療技術やサービスの創出を促し、わが国の医療イノベーションの原動力となる。
経団連は11月26日、東京・大手町の経団連会館でイノベーション委員会ヘルステック戦略検討会を開催し、国立がん研究センターの浜本隆二医療AI研究開発分野長から「患者さんに寄り添う医療データの活かし方~医療AI研究開発と共創」について説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 日本の医療AI研究開発の動向
医療AIの本格的な普及には、医療機関のみでの整備が難しいデータ基盤を、産業界と連携して構築することが不可欠である。政府は診療支援や医療情報ネットワーク、公的データベースの整備を進めるとともに、医療情報を統合して分析結果を医療現場に還元する「医療デジタルツイン構想」を推進している。
医療情報は要配慮個人情報に分類されるが、次世代医療基盤法により匿名・仮名加工を施せば利活用が可能となった。
AI研究開発での活用を想定したガイドラインも厚生労働省から提示され、医療画像等の利用手続きが明確になりつつある。
一方、医療現場からは制度が複雑との指摘もあり、より分かりやすい仕組みへの見直しが求められる。
■ 実臨床応用を目的とした医療AI研究開発
政府は官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)や医療デジタルツインの発展に資するデジタル医療データバンク構想(BRIDGE)を通じ、医療デジタル基盤整備とAI活用を推進している。
国立がん研究センターは、これらの枠組みのもと、膨大ながん診療情報を統合データベース化し、AIを活用したがん医療システムの開発を進めている。
日本が強みを持つ内視鏡分野をはじめ、病理、超音波、心電図などの領域で診断支援AIの実用化を進め、画像解析や異常検知による負担軽減や診断の標準化を図っている。健診データを活用した予防・早期診断への応用も広げている。
こうした取り組みは、医療の均てん化と質の向上を目指すものであり、今後もデータ基盤の拡充と産業界との連携を通じ、社会実装を一層加速することが重要である。
■ 社会実装の加速に向けた課題
医療AIの社会実装には、データ基盤の強化が欠かせない。BRIDGE事業では、デジタル化・匿名化した医療データバンクを構築し、多施設間で診療情報や医療画像を共有できる環境整備が進んでいる。電子カルテ情報の抽出・入力の効率化に向け、生成AIと人的確認(Human-in-the-Loop)を組み合わせた手法の活用も検討されている。
診療支援AIの導入費用や運用継続性は引き続き課題である。諸外国では企業が共同研究費を提供し、その対価としてデータ活用に参加するなど、産学官によるエコシステムが形成されている。日本でも、こうした協働を後押しする制度の構築が求められる。
【産業技術本部】
