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月刊 経団連  巻頭言 食のグローバリゼーション -日本の食は、ユニバーサルな未来食

伊藤雅俊 (いとう まさとし) 経団連審議員会副議長/味の素会長

今年、5月から10月末まで、「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマに、ミラノ国際博覧会が開催されている。これを機会に、日常あまり気にかけることのない「食の意味」、そして「日本の食の良さ」について考えたい。

“YOU ARE WHAT YOU EAT.”あなたは、あなたが食べたものでできている。

これは英国の古いことわざであるが、ヒトの食べたものは、そのほとんどがペプチドやアミノ酸レベルに消化・分解されて体内に入り、血液によって体中にばらまかれる。言うまでもなく、食は、生きる栄養である。ヒトは、体内に配られた材料で「細胞培養液」をつくり、壊れ続ける自身の細胞をつくり直し、体の平衡状態を維持する。

また、食はヒトの進化をつくる。ヒトは、「言葉」の次に「調理」という第二の革命を生み出した(チャールズ・ダーウィン)。火を使い、調理を始めたことで、消化のためのエネルギーが削減され、脳の大きさ、顎や歯の形、内臓など、われわれは今のヒトに進化し、さらには社会生活ができるようになり(リチャード・ランガム)、近年には栄養と医療により寿命が延びて、今も未来への進化の途上にある。

食は、記憶である。経験してきた膨大な食情報を脳に貯め、安全性、おいしさ、好み等、毎回一瞬で情報の照合をし、食の可否・選択の判断をする。そして、夫婦、家族、仲間、人と人、国と国をつないでいく。

食は、政治そのものである。自由貿易の仕組みへ向かいながら、一方で、食の不足、食への不満・不公平が、テロや暴動、さらには革命になる。

今世界には、途上国の「不足栄養」と先進国の「過剰栄養」という、相反する問題が広がっている。日本食は、その栄養問題のソリューションの重要な一部になる。多様な食材を上手に利用し、理想的な栄養バランスで、事実、健康・長寿という観点からは、世界最先端の食である。日本人の食文化は、形を変えて現地化しながら、世界の食文化の進歩に役立ち、おいしい食、そして健康・長寿に貢献していくことができるのだ。

人類共通に選好される“UNIVERSAL TRUTH”(共通価値)を持つ地域の食文化は、世界に広がる。

“TELL ME, WHAT YOU EAT. I CAN TELL YOU WHAT YOU ARE.”

18世紀、『美味礼賛』を著したフランス人のブリア・サヴァランの言葉だ。食への関心、知識、教養、そして、おいしさの楽しみ方は、どこの国でも共通に、幸せで平和な人々をつくる。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックと、その先を見据えれば、私たちは、日本食を、世界の隅々に広げていく絶好の機会を得たといえる。国を挙げて、あらためて食の幅広い役割を考え、われわれ日本人の日常の食生活が、ユニバーサルな未来食として楽しまれ、世界の健康に役立つことを示したい。

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