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月刊 経団連 巻頭言 インフラシステム輸出の推進に向けて

山内隆司 (やまうち たかし) 経団連審議員会副議長/大成建設会長

わが国は世界に類を見ない急激な人口減少時代を迎えつつある。世界に目を転じれば、現在70億人を超える人口が2050年までに90億人を突破すると予測されている。新興国を中心に、空港・鉄道・電力・港湾などの旺盛なインフラ整備需要が見込まれており、日本再興戦略のもと、質の高いインフラシステムの輸出に官民を挙げて取り組んでいるところである。

急峻な地形を抱えるわが国土におけるインフラ整備の難度は高く、それゆえ高度な土木技術が発達した。内陸部に多数の活断層が分布する地震国としての立地は世界最高峰の耐震技術の開発につながり、限られた可住地面積に人口と産業が密集する地理的条件は世界トップレベルの省CO2・省エネ技術を推進する一つの誘因となった。

日本の主要建設会社の海外進出は1970年代から本格化し、高い技術力を活かした高品質のインフラは海外市場でも競争優位性があると見られてきたが、受注額は過去数十年にわたり1兆円前後の水準で推移している。近年、海外受注額は増加傾向を示してはいるものの、世界上位のコントラクターの海外受注比率が40%に迫るなか、わが国の建設会社は大手の平均でも20%に満たない状況にある。

私自身、多くの新興国に赴き、各国の要人と面談する機会があるが、日本の技術力の高さは認知されながらも、やはりコスト競争力で一層の努力を要することを実感する。とはいえ、ただ品質を落として期待されるコストに応じるのではない。相手国の国状や環境条件を踏まえたインフラに対するニーズを十分に見極めたうえで、的確なスペックと適切なコストを提示する姿勢が何よりも重要となろう。

昨年大筋合意に至ったTPP(環太平洋パートナーシップ)協定により、世界のGDPの約4割を占める巨大な経済圏が形成されることになるが、これに伴い、国の“際”の定義も大きく変質することを自覚しなければならない。これまで国内で適用してきた各種インフラの標準仕様や日本式の生産方式にとらわれることなく、相手国の様式や仕組みに適合しながら、いかに一定の品質を確保できるか。今後、建設業におけるインフラシステム輸出の推進にあたっては、高い技術力に裏打ちされた柔軟性のある展開が求められる。

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