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月刊 経団連  巻頭言 首都直下地震に備えて

江頭敏明 (えがしら としあき) 経団連審議員会副議長/三井住友海上火災保険取締役常任顧問

天災は忘れたころにやってくる。科学的な根拠はないのだろうが、古来日本人は経験に基づいてそんな言葉を言い伝えている。30年以内に約70%の確率で発生するといわれている首都直下地震だが、発災した時の心構えは万全だろうか。

東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)当日の都内ターミナル駅の状況は、皆さんの記憶に残っていると思う。当時の帰宅困難者は約515万人(内閣府推計)。首都直下地震が昼に発災した場合、東京圏(1都4県)で約640万~約800万人の帰宅困難者が予測されているが(内閣府推計)、困難な家路をたどる最大の理由は家族の安否である。しかし一方で、災害直後でも速やかにお互いの安否を確認できる災害用伝言板や音声お届けサービスを利用あるいは練習したことのある人はそれぞれ8.2%、1.3%しかいないとのアンケート結果もある。

発災直後の東京では、消火・救命が最優先事項である。ただでさえ緊急車両は移動に困難を伴う。そのようななかで、道路が東京マラソン並みに人で埋め尽くされていては救える命も救えず、消せる火も消せないだろう。

経団連加盟各社の社員数の総数が仮に約800万人として、その3割が東京圏で働いているとすると、約240万人。彼ら・彼女らが家族の安否確認をする術を熟知し、一斉帰宅を抑制するだけで多くの人命が救われると言ったら大げさだろうか。

異常事態に直面すると、人間には「多数派同調バイアス」が働くという。つまり、冷静な判断ができずに周りの多数と同じ行動をとることになる。また、人間には、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう特性がある。自分だけには災害被害が及ばないと考えてしまう特性であり、これを「正常性バイアス」という。一例をご紹介しよう。2014年2月に公表された内閣府実施の「防災に関する世論調査」によれば、「地震に備えて家具などを固定していない理由」は、「やろうと思っているが先延ばしにしている(32.5%)」「地震が起きても転倒・落下・移動しないと思うから(10.8%)」「転倒・落下・移動しても危険ではないと思うから(8.6%)」となっている。

これら人間特性を理解し、一人ひとりが日ごろからシミュレーションを怠らず、冷静な行動をとれるよう訓練をしておくことが大切である。

また、企業は、発災時に従業員が家族の安否確認を確実に実施できるよう、平時より準備し周知徹底したいところである。この取り組みによって一斉帰宅による混乱を大幅に縮小し、企業が災害被害の減少に貢献することは、首都直下地震の発生が懸念される今、企業の社会的責任といえるのではないだろうか。

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