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月刊 経団連 巻頭言 需要サイドからの地域経済活性化

隅 修三 (すみ しゅうぞう) 経団連副会長/東京海上日動火災保険相談役

地方が元気でない限り、日本は健全な国家たり得ない。各地を訪問しながら、地方の衰退は社会全体の健全さの喪失につながることを痛感してきた。

手が行き届いていない森林を見るたびに、国土の7割を占める森林資源の再生を地方創生の1つの柱にできないか考えてきた。しかし、林業に携わる人たちからは、「急峻な山林」「林道の荒廃」「切り出しにかかるコスト」「外材との価格差」、加えて「山で働く若者がいない」等、補助金なしには活性化は無理という話ばかりだった。

農業の6次産業化において、生産側がいくら優れたモノをつくっても、需要とつながっていない場合はことごとく失敗しているという現実を見てきた。そこで、林業においては発想を逆転して需要サイドから生産側の改革を引き出せないか、と考えた。国産材を大量に使う需要が見えてくれば、生産者自らが改革を進めるのではないか。それがない限り、いくら補助金を注いでも生産側の改革進展はあり得ないだろう、と。

国産材の大量需要をつくる。それには市役所や学校などの公共建造物だけではとても足らず、最大の需要である民間の中高層オフィスビルを木造にする以外にはない。現実に欧州では民間の木造オフィスビルが次々と建ち、超高層ビルの計画まで出ている。木材を貼り合わせた集成材(CLT (Cross Laminated Timber) を含む)の技術的進歩によってそれが可能になっている。しかし、日本ではそのことを多くの人が知らない。

世界最古の木造建築を有しながら、日本では、木は火に弱く、折れやすく、コストも高い、ましてや地震もある、というのが常識で、「木で高いビルをつくるなど考えたこともない」人がほとんどである。この常識を覆し、木は鉄骨・鉄筋コンクリートに強度、耐火性、耐久性の面で、またコスト面でも負けない素材になってきたことを広く世の中に知らしめたい。日本の中高層ビルが木造で建つことで、国産材の需要が高まり、林業が復活、若者の仕事が増え、地域経済の活性化につながればと思う。

先日、ついに銀座8丁目で12階建て木造商業ビルの建設が動き始めた。マンション、介護施設の木造建設計画もあると聞く。ビルの発注者である企業経営者には、ぜひ、木造を選択肢の1つにしてほしい。

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