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月刊 経団連 座談会・対談 米国新政権下における日米関係のさらなる強化に向けて

植木 義晴
司会:経団連アメリカ委員長
日本航空会長

茅野 みつる
伊藤忠インターナショナル会社 President & CEO

森 聡
法政大学法学部教授/21世紀政策研究所研究委員

渡部 恒雄
笹川平和財団上席研究員

早川 茂
経団連副会長、アメリカ委員長
トヨタ自動車副会長

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2021年1月、米国でバイデン政権が発足した。深刻化する社会の分断を受け、国民に結束を呼び掛ける一方、政策面では、新型コロナウイルス感染症の収束、雇用の維持・回復や気候変動問題への対応に注力する姿勢を打ち出すとともに、外交・通商・安全保障では国際協調路線を掲げている。米国を最も重要なパートナーと位置付ける日本は、新政権下での米国の動向や変容する国際情勢を踏まえつつ、関係を一層強化すべく、積極的に働き掛けていくことが求められる。
本座談会では、今後の米国政治・社会・経済の動向および主要政策を展望したうえで、グローバルな視点から日米関係のさらなる強化のあり方、経済界の取り組みについて議論する。

早川 茂(経団連副会長・アメリカ委員長/トヨタ自動車副会長)
トランプ政権下の4年間、経済界としては通商政策などの対応に追われたが、安倍総理とトランプ大統領の強い信頼関係に支えられ、日系企業の対米貢献を効果的に発信出来た面もあった。バイデン政権の気候変動対策には経済界としても大変注目。特にインフラ整備やクリーンエネルギーの促進においては日系企業が貢献出来るものと期待。また、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の再構築にあたっては、日米のリーダーシップが欠かせない。具体的には、自由で開かれたインド太平洋の推進、日米欧三極連携による国際ルールの形成、米国のTPP復帰への働き掛けなどである。経団連として、今後も訪米ミッション等を通じて理解活動に取り組み、日米の企業間協力の可能性について意見交換し、日米経済関係のさらなる強化に努めていきたい。

茅野 みつる(伊藤忠インターナショナル会社 President & CEO)
日本企業にとって、米国の対中政策で重要なポイントは、技術競争に対する様々な規制強化である。米国の規制に従うと中国で制裁を受ける可能性もあり、〝規制の板挟み〟になってしまう。例えば、日本はまだCFIUSに対する事前届け出を一定の条件下で免除される「ホワイト国」になっていない。これでは日本企業は激しいM&A競争で勝てない。日本政府は引き続きバイデン政権に働き掛けていただきたい。また、バイデン政権の政策では特に気候変動分野で投資機会がある。JCM(二国間クレジット制度)を先進国でも展開出来るようなプラットフォームづくりが日米連携で出来るのではないかと思う。同政権の閣僚の人員構成は50%が非白人である。このようなダイバーシティが分断をなくすきっかけになると期待している。

森 聡(法政大学法学部教授/21世紀政策研究所研究委員)
バイデン大統領は多国間連携の枠組みによりイニシアティブを進めている。QUAD、G7、D10、T-12といったマルチラテラリズムの枠組み全てに含まれているのは日米だけである。それだけに日米連携による多国間外交の重要性が高まっている。日本は第三国からの期待も強く、欧米のコアマーケットを攻めつつ、中国市場のリスクを上手くヘッジして、第三国の需要に応える活動が求められる。また米中が競争する分野として、技術、地政学、民主主義がある。この3つの軸が交錯するのが台湾である。米国が戦略的価値として台湾に着目している点に留意し、日本は安全保障の面からも議論をしていかなければならない。

渡部 恒雄(笹川平和財団上席研究員)
世界における米国の求心力は低下し、国内の分断状況もしばらく続くだろう。トランプ以前の米国には戻れず、世界秩序も流動的になる。米中の対立関係は継続し、米国の日米同盟への期待も高くなる。日米同盟は「自由で開かれたインド太平洋」のための公共財だ。日本は地域秩序の現状維持を望む豪州、インド、東南アジア諸国と連携し、内向きの米国を地域に繋ぎ留め、中国をルール順守に誘導する努力が求められる。それが日本のビジネスと経済を支えることになる。またグローバル経済がもたらす世界的な貧富の格差に向きあう必要がある。この点に問題意識を持っているバイデン政権と日本の企業文化との相性は悪くない。

植木 義晴(司会:経団連アメリカ委員長/日本航空会長)

  • ■ 大統領選総括/今後の米国の動向
  • 世界秩序が流動的になっている
  • 経済界として通商政策への対応に追われた4年間
  • ダイバーシティに富んだ新閣僚に期待
  • 様々な対外政策を争点にせざるを得なかった
  • ■ バイデン政権の主要政策
  • トランプ以前の米国には戻らない
  • 対中政策の鍵は台湾にある
  • ポジティブな外交政策もあり、インド太平洋戦略にも期待
  • 気候変動対策、サプライチェーン政策で日米の協力を
  • 米中の“規制の板挟み”に注意しなければならない
  • ■ 日米関係のさらなる強化のあり方
  • 日米連携による多国間外交の重要性が高まっている
  • アジアの安定のための日米関係を築く
  • FOIPの推進、日米欧による国際ルールの形成、米国TPP復帰に期待
  • CFIUSのホワイト国にならないと日本は競争出来ない
  • ■ 経済界の取り組み
  • 中国市場のリスクをヘッジして、第三国の需要に応える
  • 貧富格差問題でリーダーシップを
  • 日米連携による気候変動への取り組みに期待
  • 日米の経済関係のさらなる強化に努める
全米知事会夏季会合ミッション(2018年7月)
インスリー・ワシントン州知事
全米知事会冬季会合ミッション(2020年2月)
パーソン・ミズーリ州知事(中央)

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