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月刊 経団連 巻頭言 首都圏一極集中の是正と地方創生

相川 善郎 (あいかわ よしろう) 経団連審議員会副議長/大成建設社長

「地方創生」という言葉が様々な場面で取り上げられるようになって久しい。2014年に日本創成会議が全市区町村の約5割にあたる896もの「消滅可能性都市」があるとするセンセーショナルな提言を公表し、危機感を強めた政府は地方創生に向け様々な対策を講じてきた。しかしながら、少なくともコロナ発生前までは首都圏への人口流入傾向に歯止めはかからず、首都圏一極集中とトレードオフの関係にある地方創生は必然的に停滞を余儀なくされている。

地方創生は経団連が掲げる「サステイナブルな資本主義」の重要な柱と位置付けられており、地方部が有する農業や観光業等、産業面の優れたポテンシャルの活用なしに、我が国の持続的な経済成長を実現することは極めて困難である。また、近年の自然災害の激甚化・頻発化を踏まえれば、地方の活力低下に起因する担い手不足が将来の地域防災に深刻な影響を及ぼす可能性についても無視できない。

2021年も熱海の土石流災害をはじめとする多くの自然災害が全国各地で発生したが、災害発生時に最前線で対応にあたったのは主に地元の中小建設事業者の方々である。地方の活力低下は将来的に彼らの事業継続を妨げ、地域の守り手不在を招く危険をはらんでいる。今後、高い確率で発生が見込まれる南海トラフや首都圏直下型地震等の大規模自然災害に備えるレジリエントな社会基盤の構築に向けては、首都圏一極集中の是正が不可欠であるといえよう。

対策に特効薬はなく、地域の実情に即した対応が必要となるのは言うまでもないが、多くの若者が進学・就職を機に上京している現状を踏まえれば、まずは地方に働く場・学ぶ場をつくっていくことに力点を置いて取り組む必要がある。コロナ禍は地方経済に大きな打撃を与えたが、リモートワークを活用した新たな働き方や本社機能の地方移転、サプライチェーンの国内回帰等について考え直す契機ともなり、これまでの首都圏一極集中の流れに潮目の変化をもたらした。政府には、こうした機運の高まりを一過性のものとすることなく、企業に対する支援の拡充に加え、首都圏に集中する大学や国立の研究施設の地方分散についても今後十分に検討していくことが求められる。

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