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月刊 経団連  巻頭言 地方社会の「適応」に向けて

柿木 真澄 (かきのき ますみ) 経団連審議員会副議長/丸紅社長

「地方創生」の根拠法である「まち・ひと・しごと創生法」の第1条には、「人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正」するとの記述がある。同法施行から10年がたったが、残念ながら状況は厳しさを増していると言わざるを得ない。

価値観やライフスタイルの変化に伴い、出生率は世界的に低下傾向にあるが、その影響は元来人口が希薄な地方社会で真っ先に顕在化している。山がちな国土のあちこちで頻発する自然災害は、土地に根差した人々の生活を脅かす。グローバル競争と技術革新の波にもまれ、各地の産業は変化を迫られている。容易にはあらがいがたいトレンドに対し、従来の社会構造をベンチマークとした「緩和」から、環境変化を前提とした「適応」に重点を移すべき時期に来ているのではないか。

例えば、老朽化の進む各種インフラは、デジタル技術によるメンテナンスの抜本的な効率化や、需要予測に基づいたダウンサイジングが必要だろう。コンパクトシティ化や行政サービスの共通化・広域化も一層推進すべきだ。明治以来、その骨格が維持されてきた地方行政単位は、東京一極集中を避けるための適正な人口規模の確保という点で再考の余地があろう。人材面では、外国人の受け入れ拡大は不可避の課題である。

こうした基盤的な取り組みを進める中で、地域経済の自律的なエコシステム構築の道筋も見えてくるはずだ。近年、再生可能エネルギーの開発や地政学リスクを踏まえた産業立地の要請の中で、新たな産業クラスターの形成に対する期待が高まっている。地域の産学官が海外を含めた域外のプレーヤーと連携し、新たな価値を持続的に生み出していくことが重要だ。

これらの取り組みにおいて、企業は資本、人材、ノウハウ、イノベーションを提供する不可欠なパートナーである。根拠なき楽観でも意志なき悲観でもない、しなやかな現実主義に立った改革を共に進めるときだ。

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