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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年9月19日 No.3146 「社会保障制度改革の課題」 -一橋大学経済研究所の小塩教授が常任幹事会で講演

講演する小塩教授

経団連は4日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催し、一橋大学経済研究所の小塩隆士教授から「社会保障制度改革の課題」と題する講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ 社会保障制度改革国民会議・報告書の評価

社会保障制度改革国民会議が、先月公表した報告書の基本的メッセージである(1)負担のあり方の「年齢別」から「負担能力別」への移行(2)将来の社会を支える世代への負担の先送りの解消――は全く正しい方向だが、各論ではさまざまな問題が指摘されている。

年金について、支給開始年齢の引き上げは中長期的な課題、マクロ経済スライドの実施は「検討」、高所得者の年金給付の見直しは今後の課題とされ、制度は「持続可能」との認識から、現行制度を大幅に変更しない方向性が示されている。また、世代間格差論に対する強い否定論はもっともながら、将来世代への負担の先送りは改めなければならない。

医療・介護について、特に後期高齢者支援金への総報酬割の全面的導入が論争を呼んでいる。総報酬割には一定の効果があるものの、これにより生じる財源を国民健康保険の財政基盤安定化に使うのは筋が通らない。将来的な医療改革の方向性として、医療保険を都道府県単位で統一・再編成し、年齢・所得の調整を国が行うという方針が考えられる。

被保険者の範囲拡大について、報告書では現行の社会保険方式を軸に、被用者保険の対象を拡大すべきとされているが、これは妥当な考え方である。一方、被保険者の範囲拡大は、企業の負担の増大につながるため、法人実効税率の引き下げとセットで進めていくべきである。

■ 社会保障制度改革に対する基本的視点

かつては、リスク分散機能を家族や地域社会が担っていたが、個人を構成単位とする市民社会の成立により、政府がリスク分散の仕組みとして、社会保障を設けた。しかし、社会保障の充実によって、老後に自分の子どもの世話になる必要がなくなったために出産・育児が忌避され、少子化が進行したともいえる。社会保障は、子どもの順調な再生産を前提にしているが、少子化の進行により、財政基盤が脆弱化した。この社会保障の「自己崩壊性」を克服するには、高齢層向けの給付削減と若年層の負担軽減による、年齢階層間の所得移転の圧縮が必要であるが、多数決で意思決定を行う民主主義のもとでは、人口構成上、高齢層向けの給付削減は政治的に困難である。すべての世代の理解を得るには、「困っている人を困っていない人が助ける」仕組みにしなければならない。

具体的には、(1)年齢とは関係なく所得に応じた負担とするなど、「困っていない人」に少し我慢してもらうこと(2)「給付付き税額控除」など低所得層にターゲットを絞って「困っている人」をより重点的に支援すること(3)次世代への投資により社会全体の「助け合う」力を強化すること――が必要である。

【総務本部】

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