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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年11月28日 No.3156 目指せ健康経営/従業員の健康管理の最前線<1> -なぜいま「健康経営」が動き始めたのか

東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット特任助教
ヘルスケア・コミッティー会長
古井祐司

■ 高まる健康経営の重要性

2011年3月2日号のニューズウィーク日本版が「儲かる健康経営最前線」というタイトルで特集を組みました。「従業員の健康増進を図ることで企業も儲かる」という発想の斬新さに感心しました。従業員は企業にとってもっとも重要な経営資源であり、企業が成長する際に従業員の健康づくりを進めることには利があります。

なぜいま、健康経営が動き始めたのでしょうか。背景の一つは、少子高齢化や定年延長に伴い従業員の平均年齢が上昇する構造です。これを予防医学的な視点でとらえると、加齢とともに心筋梗塞など生活習慣病の重症化が増えるという構造的な課題を企業が内包していることです。例えば、40代後半の男性は40代前半に比べて、心疾患の発症率は1.7倍です(厚生労働省人口動態統計)。つまり、平均年齢が後ろにシフトすると重症疾患が増加します。

■ 重症疾患発症者の3分の2は未受診

もう一つの理由は、「重症疾患で倒れている従業員の多くは自己管理していない」ことがわかってきたことです。これは最近、レセプトや健診のデータ(の様式)が全国で統一かつ電子化され、企業ごとの分析や相互の比較がしやすくなったためです。厚生労働省の研究調査(注)によると、1万人規模の企業では年間10数名の重症疾患が新規に発症しているものの、発症者の3分の2は未治療(未受診)であることがわかりました。健診は受けても自らのリスクを認識せず、医療機関への受診や生活習慣の改善といった行動変容に結びつかない状況がうかがえます。

(注)厚生労働科学研究循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「集団特性に応じた効果的な保健事業のあり方に関する研究」(研究代表者=東京大学・古井祐司)

なお、年齢区分別の総死亡に占める突然死の割合をみると、20代後半以降では40~44歳が最も高く、そのうち心疾患が70%、脳血管疾患が16%を占めており(日本災害医学会会誌、1997年)、働き盛り世代における生活習慣病予防の重要性がうかがえます。

従業員が重大な病気になることは大きな機会損失となり、企業の生産性に影響します。国や経済団体が設置する健康経営に関する専門委員会に参画する際には、企業トップの方々とお話しする機会も多いのですが、「従業員が一人倒れたときの影響は、大企業、中小企業を問わず甚大です」と語られた企業トップの方々の発言は印象的であり、企業における健康増進の本質を突いていると感じました。

■ 働き盛り世代で高まる生活習慣病リスク

働き盛り世代では、自らの健康や病気の予防に対する優先度は、仕事や子育て、介護といった事柄に比較して相対的に低くなりがちです。しかしながら、20代・30代はBMIや腹囲の値が急上昇し、肥満化がもっとも進む年代であり、その後、加齢とともに血圧や血糖などの値が上昇を続け、生活習慣病のリスクが高まっています。したがって、企業が組織として従業員の健康増進に取り組む意義は大きいと考えられます。

生産性の維持・向上に寄与する具体的な方策とはどのようなものでしょう。関連する政府の戦略とともに次号でご報告します。

<参考資料>
「健康経営のすすめ~今こそヘルシーカンパニーを目指そう」(東京商工会議所)

執筆者プロフィール

古井祐司(ふるい・ゆうじ) 東京大学大学院医学系研究科修了、医学博士。同大学医学部附属病院などを経て、2012年より現職。予防医学の社会適用を図る健康委員会(ヘルスケア・コミッティー)を株式会社化し、同社代表取締役会長を担う。国、自治体等で委員を務める。

*「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標

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