経団連は3日、東京・大手町の経団連会館で、内閣府との共催により、「ダイバーシティ・マネジメントセミナー」を開催し、企業の管理職やダイバーシティ担当者を中心に約110名が来場した。概要は次のとおり。
■ 基調講演「社会も会社も幸せにするダイバーシティ経営」
坂本光司氏(法政大学大学院政策創造研究科教授・同大学院静岡サテライトキャンパス長)
これまで7千社を調査してきたが、そのなかでも本日のテーマに合致しているのは、わずか1割の約700社である。自身の経験から考える企業経営の最大・最高の使命とは、「会社にかかわるすべての人々の永遠の幸せの実現・追求」である。すなわち、大企業、中小企業にかかわらず、企業経営者は、「社員とその家族」のみならず、「社外社員とその家族」「現在顧客と未来顧客」「地域住民とりわけ社会的弱者」「出資者・支援者」を幸せにすることが重要である。
ダイバーシティ経営を実践できている企業では、女性だけにとどまらず、高齢者や障害者といった「社会的弱者」が企業を支え、確かな業績にもつながっている。こうした取り組みは現状、中小企業が中心となっているが、大企業、中小企業にかかわらず、あらゆる社員が活躍し、幸せになれる企業を目指してほしい。
■ 事例報告1
横山泰和氏(東日本旅客鉄道執行役員人事部長)
当社の主要な事業である、鉄道事業や生活サービス事業等は、不特定多数のお客さまに利用いただいており、お客さまのニーズに的確に対応するためには、社内にダイバーシティの文化を定着させることが不可欠である。また、国鉄の経営破綻を経て発足した企業として、企業文化の大胆な転換が求められており、男性社会からの脱皮、すなわち女性の活用が急務だったという背景もあった。
具体的には、女性の活躍推進のみならず、男女共同参画やワーク・ライフ・バランス等、広義のダイバーシティを社内に定着させるため諸施策を実現させている。結果として、すでに山手線車掌の約4割が女性であり、女性の駅長も現在6名を数えるに至っている。
ダイバーシティ戦略の意義は、企業経営全体の中長期的な展望といった広い視野、文脈のなかで考える必要がある。先進国では例外的に、日本では鉄道がメインの交通機関の地位を保っているが、その背景には、鉄道事業経営に非連続をもたらすような大きなステージの交代が、過去に何回か起こったことによるものと考えられる。
具体的には、新幹線鉄道の開業、国鉄の分割民営化、Suicaの導入、駅ナカビジネスの推進等である。これらはすべて、組織のいわば「辺境」にいる少数者からアイデアが生まれたものであり、組織内にダイバーシティの文化があることが、いかに重要かの証左と考えられる。
■ 事例報告2
平山伸一氏(伊藤忠商事人事・総務部長代行)
当社では、2004年にスタートした人材多様化推進計画に基づき、女性を含む多様な人材の活躍支援を推進しており、この10年で女性総合職の数も増え、仕事とライフイベントを両立するための諸制度も法定を上回る水準で整備された。
今後は、これらの制度をセーフティネットとして活用しながら、主体的・自律的にキャリアを形成する強い意志を持った「頑張る女性」を支援し、会社として成果の最大化を図ることを基本方針とし、個々のライフステージやキャリアに応じたきめ細やかな個別支援を徹底していく。具体的には、重要なキャリアパスである海外駐在機会を付与するための「子女のみ帯同(単身子連れでの海外駐在)制度」の運用を個別に推進している。
また、男女にかかわらず働き方の見直しを進めている。当社では昨年10月から業務効率化の観点から、9時から17時15分勤務を基本としたうえで深夜残業を禁止、20時以降の勤務を原則禁止とし、朝型の勤務へのシフトをトライアル実施している。社員の業務効率化に対する意識も向上し、残業時間は縮減されてきている。今後もすべての社員にとって魅力のある会社、企業風土の推進を図っていきたい。
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事例報告後、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科の萩原なつ子教授と古瀬ワークショップデザイン事務所の古瀬正也氏をファシリテーターとして、ワールドカフェ形式の議論が実施され、参加者の間で活発な意見交換が行われた。
同時開催された、第2回「カエルの星」認定書授与式では、日々の仕事を見直し成果をあげた企業等のチームが表彰を受けた。
【政治社会本部】