環境問題に関する調査研究、政策提言、研究助成、その成果の普及に取り組む環境対策推進財団はこのほど、情報発信事業の一環として、欧州に経団連の専門家を派遣し、国連気候変動枠組条約「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」に産業界NGOとして参加した。
あわせて、英国政府、OECD、国連気候変動条約事務局、英国産業連盟、フランス産業連盟、欧州産業連盟等を訪問し、エネルギー・気候変動問題に関するわが国経済界の取り組み・考え方を説明するとともに、EUの気候変動政策についての考え方を聞いた。訪問概要は次のとおり。
1.国連気候変動枠組条約ADPへの参加
今回の会合では、(1)すべての国に適用される2020年以降の新しい法的枠組みの2015年までの採択(ワークストリーム1)(2)2020年までの排出削減(緩和)の野心の向上(ワークストリーム2)――について、今後具体的な交渉を行うコンタクトグループを設置することとなった。
また、次回ADPの開催日程に合わせて6月4・5日に閣僚級会合を開催することや、10月に追加セッションを開催することが決定した。
2.気候変動問題・エネルギー問題に関する経団連の取り組み等を説明
各訪問先で、自主行動計画や低炭素社会実行計画等の経団連の気候変動問題への取り組み、気候変動やエネルギー政策に関する考え方を説明し、理解を得た。また、国内の議論の現状に関して説明した。
特に、ロンドンの大和日英基金のセミナーでは、国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)第三作業部会の副議長を務めるジム・スケア・インペリアル・カレッジ教授とともにプレゼンテーションを行った。また、JETROロンドンでも講演を行った。
3.欧州委員会の気候変動・エネルギー政策の提案
欧州委員会が提案している気候変動政策の提案(2030年までに温室効果ガスを1990年比40%削減)については、「主要国の強い政治的支持がある」との意見がある一方、(1)ポーランドが強く反対している(英国産業連盟、英国エネルギー気候変動省、OECD)(2)欧州議会選挙や欧州委員会の交代がある(英国産業連盟)――等の要因により、採択の見通しは不透明との意見が多かった。
欧州産業連盟では、基本的には承認されるだろうが、6月に承認されることはなく、少なくとも今年末まではかかるとの見方であった。
内容に関しては、2030年までに温室効果ガス40%削減との目標に異議を唱えている産業団体はなかった(英国産業連盟は、今の欧州委員会の提案全体に賛成)。他方、欧州産業連盟は、EUだけが高い目標を掲げて他国がついてこないということがないよう、柔軟性を持たせるべきとの意見であった。
また、欧州産業連盟、英国産業連盟は、温室効果ガス削減目標は各国レベルでも目標を掲げる一方、再生可能エネルギー、省エネルギーについては、各国レベルでは目標を掲げないという現在の提案を維持することが重要との意見であった。
4.EU排出量取引制度(EU-ETS)
EU排出量取引制度(EU-ETS)について成功と評価しているところはなかった。英国産業連盟からは、「欧州全体で明確なターゲットを持ち、その方向に向かっていくような制度とすべき」との意見、欧州産業連盟からは、「マーケットに介入するようなものではなく、抜本的な改革が必要」とのコメントがあった。
5.産業界の協力
欧州の産業団体とはかねて、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の際に対話・イベントの開催を行っているが、欧州産業連盟をはじめ欧米各国の経済団体は、引き続き連携に前向きであった。特に、フランス産業連盟は、パリで開催されるCOP21に向け、取り組みを強化したいとのことであった。
6.その他
- (1)デービッド・キング英国気候変動特使は、蓄電池の研究開発に強い関心を持っていた。5月に来日する際、経団連と会合を持ちたいとのことであった。
- (2)国連気候変動枠組条約事務局のハルダー・ソーゲイルッソン部長は、これまでの国単位の気候変動への取り組みには限界があり、産業界の取り組み等を条約に位置づけることは考えられないかとのアイデアを述べていた。
【環境本部】