経団連は3月27日、東京・大手町の経団連会館で日タイ貿易経済委員会(小林栄三共同委員長、伊藤一郎共同委員長)を開催し、東京大学社会科学研究所の末廣昭教授から、タイの政治経済情勢の現状と成長戦略について講演を聞いた。
講演の概要は次のとおり。
1.政治情勢
現在、タイには、現政権を支持する勢力と、国王中心に体制の刷新を目指す勢力の対立があるが、世論調査では、「いずれも支持しない」との回答が70%を占めている。
今後のシナリオはいろいろと考えられるが、政情が安定を取り戻すためには、いずれのシナリオであっても「徳」をもって政治家を采配できる「統治者」が必要になると考える。
2.経済情勢
2013年の経済成長率は政治混乱で、タイ中央銀行による当初予測の4.5%から2.9%に下がった。また、14年は3.5~4.0%の当初予測に0.5ポイントの下方修正がなされている。かつて年率15~20%で成長していた輸出は、11年以降、ほぼゼロ成長である。
10年に上位中所得国となったタイが、OECDの平均所得(3万6000ドル)を達成するには、7%成長で32年かかる。したがって、グローバル競争よりも国内経済のリバランスに力を入れ、社会問題を克服することが大切だと考える。
タイ経済の成長のためには、次の方策が考えられる。第1は、アーコム・トゥームピッタヤーパイシット国家経済社会開発庁長官が提唱する「創造的経済」の構築であり、(1)文化・自然遺産を利用した観光・料理・スパ(2)芸能(3)メディア(4)広告・ファッション――といった分野で、技術革新と創造性の向上を進めることである。すでに中近東向けのメディカルツーリズムや、日本向けの自然派化粧品で成果を挙げている。
第2は、タイと周辺国の経済関係の強化を図る「タイプラスワン」の推進である。(1)タイを拠点とするメコン地域各国(注)でのサプライチェーンの構築(2)タイ企業と連携したメコン地域各国への進出(3)タイ国内へのメコン地域各国からの顧客吸引――などが考えられる。こうした考えのもと、鉄鋼、化学、輸送機器・部品等の分野ではタイ・インド間の貿易も拡大している。
なお、政治・経済の課題を抱えるタイのASEANにおけるプレゼンスが相対的に弱まるなか、中国のメコン地域における活動が活発化している。例えば01年から中国はタイをはじめ世界中の華僑の子弟を無料で中国に招待するなど、人的ネットワークを構築している。また、メコン地域に工業団地の建設を進めている。毎年秋には、南寧市での商談会にあわせて、中国の国家指導者とASEAN各国首脳との間で、経済協力の進め方について会談を行っている。今後とも同地域で中国がリーダーシップを発揮していく可能性が高い。
(注)メコン地域各国=カンボジア、ラオス、ミャンマー等
【国際協力本部】