経団連は8日、東京・大手町の経団連会館で社会保障委員会(斎藤勝利委員長、鈴木茂晴共同委員長)を開催し、目白大学大学院の宮武剛客員教授から、医療・介護を中心に、社会保障制度改革の課題について説明を聞くとともに意見交換を行った。宮武氏の説明の概要は次のとおり。
1.社会保障制度を取り巻く環境
現在、一般歳出の半分以上を社会保障費が占めている。今後も、高齢化とともに社会保障費は急激な増加が見込まれ、国民負担も今の水準では済まなくなる。
国民皆保険制度の基盤である市町村国民健康保険は、高齢化、低所得化、高い疾病を有する確率という三重苦のなかで厳しい運営を迫られている。現在でも、加入者が3000人未満の国保が24.2%に上るなど零細化が進み、リスク分散が難しい状態にあるうえ、人口減で零細化はさらに加速していく。このため国保の都道府県単位化と、その財政基盤の安定化のため、後期高齢者支援金に全面総報酬割を導入し、これによって不要となる国庫負担の一部を国保へ投入することが提案されている。
2.医療の機能分化推進
現在の医療サービス利用状況を将来に投影した場合、2025年に必要な病床総数は、現状の166万床から202万床に急増するが、病床の大幅増は非現実的で、費用対効果の面からも妥当ではない。高度急性期、一般急性期、回復期など病院・病床の機能分化を進めながら、慢性期の疾病を抱える高齢者群に対し「病院完結型」から「地域完結型」へ、いわば「治す医療」から「治し・支える医療」への転換を図るべきである。
特に、かかりつけ医制度の普及を進め、まずはかかりつけ医に相談し、必要があれば病院に行くという新しい流れをつくらなければならない。また病院においては、医師・看護師らを集中的に投入し、早期退院を図ることで、ベッドの回転率を高めて病床数を抑える必要がある。これら地域の医療提供体制の再編に当たっては、都道府県が指導的役割を果たすことが求められる。
医療機関の機能分化を推進するための仕組みとして、社会保障制度改革国民会議報告書では地域医療・介護の「基金」創設が提案され、14年度政府予算案で当初903億円が充当された。この基金(補助金)を活用した機能分化の支援や、病院群の再編成を図る都道府県ごとの地域医療ビジョンの策定が予定されている。加えて14年度の診療報酬改定では、主治医機能を重視する点数設定等の誘導策が講じられた。
病院頼みの体制を続ければ、超高齢化・大量死の時代を迎え、看取りの場所さえ確保できない事態になる。そこで訪問診療・往診を担う在宅療養支援診療所や訪問看護の拡充・定着によって、最低限4人に1人は自宅や非医療機関で看取れる体制、つまり医療・介護・福祉の連携による地域包括ケアシステムの構築が早急に求められる。
3.地域包括ケアシステムの構築
地域包括ケアシステムとは、自宅や高齢者向けの住宅等で暮らす高齢者らを中学校区・人口1万人程度を想定し、地域ぐるみのネットワークで支え合う試みである。
その実現には、それぞれの地域特性に応じ医療と介護の連携強化、介護サービスの充実強化、予防推進、生活支援サービスの確保、高齢者向けの住まいの整備といった取り組みが包括的、継続的に行われることが必須である。
介護保険制度でも、全国一律サービスの要支援者に対する訪問介護・通所介護が、15年度から、市町村の総合事業へ移行される運びである。この背景には25年にかけて介護職員は100万人規模で増員の必要性があり、軽度者の介護にはNPOなども含めた多様な主体の参加を求めるほかない現実がある。
「地域再生」への極めて難しい作業になるが、未曾有の超高齢社会を乗り切るために列島の各地域で「サバイバルレース」が始まる。
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講演後の意見交換で、鈴木共同委員長から、国保と被用者保険の自立的な運営を維持すべきであり、全面総報酬割導入によって不要となる国庫負担を国保の財源対策に充当する案には反対であるとの意見が出された。
【経済政策本部】