IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、世界気象機関と国連環境計画により1988年に設立された政府間機関で、地球温暖化に関する最新の科学的知見を取りまとめ、政策に関連する情報を提供することを主な目的としている。IPCCがこれまで4次にわたって公表した評価報告書は、国連気候変動交渉等に影響を及ぼしてきた。
4月12日、IPCCで温室効果ガス削減に関する検討を行う作業部会は第5次評価報告書をまとめ、温室効果ガス抑制・削減のための政策・施策の評価や排出シナリオ分析結果等を公表した。
そこで、経団連は14日、東京・大手町の経団連会館で国際環境戦略・地球温暖化対策合同ワーキング・グループ(手塚宏之座長、丸川裕之座長)を開催し、総括執筆責任者として同報告書の取りまとめに携わった電力中央研究所の杉山大志上席研究員を招き、意見交換を行った。
説明の概要は次のとおり。
■ IPCCが提示するシナリオの前提とコスト
地球の気温上昇を産業革命前に比べて2℃以下に抑制するためには、世界全体で2050年までに再生可能エネルギーや原子力など低排出エネルギーを10年の3~4倍に増やし、40~70%排出削減(10年比)する必要がある。
この2℃シナリオの前提となるのが、国際協調と技術革新であるが、全世界が一致協力して排出削減に取り組むと同時に、多くの温暖化対策技術が進歩し普及する、という前提の実現は容易ではない。
IPCCのシナリオは、現実を大幅に単純化した数値モデルに依存しており、安全保障や国際競争上の懸念については一切考慮されていない。また、技術革新の面でも、21世紀後半にバイオエネルギーとCCS(二酸化炭素回収・貯留)などいまだ実用化・普及していない技術が、現在の石炭や石油に匹敵する規模で普及することを想定している。現状に鑑みれば、奇跡的な変化が必要であることがわかる。
国際協調と技術開発が理想どおり進む場合でも、温暖化対策のために、30年に世界のGDPの1~4%程度が失われる。技術革新が停滞したり、国際協調が不完全な場合にはコストが無限大に増える可能性がある。
■ 原子力の位置づけ
原子力について、評価報告書では、発電量に占める割合の低下やリスクに関する記述がある一方、再生可能エネルギーやCCSと並ぶ低排出電源であることや、安全性の改良を含む技術開発が進展している現状等も客観的に記されている。
報告書が原子力に否定的な立場を取っているかのような報道が一部みられたが、誤りである。
■ 排出量取引の評価
排出量取引については、排出削減の効果が限定的であったことや、欧州排出量取引制度(EU-ETS)が意図されたほどには成功しなかったこと、排出権価格下落により追加的な排出削減へのインセンティブを与えなかったことなどが記載された。特にEU-ETSの低迷については、金融・経済危機や規制の不確実性、長期的な信頼性の欠如等が構造的要因として挙げられた。日本で制度導入の是非について議論する際、重要な教訓となろう。
【環境本部】