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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年10月23日 No.3197 「ビッグデータが私たちの医療・健康を変える II」 -21世紀政策研究所/第110回シンポジウム

21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)は6日、3月の東京に続いて、大阪市内で第110回シンポジウム「ビッグデータが私たちの医療・健康を変える II」を開催した。同研究所が取り組む研究プロジェクト「ビッグデータ・ビジネスが描く未来」の研究報告とともに、ビッグデータの利活用がもたらす医療・健康サービスの未来像についてパネルディスカッションを行った。概要は次のとおり。

■ 再生医療のグローバル展開と個人化医療への転換

冒頭、澤芳樹・大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科教授が、患者自身の筋肉細胞を培養した細胞シートを心臓に貼りつけ心筋機能を回復する治療を紹介し、現在はiPS細胞による心筋再生医療を目指していると説明した。そのうえで、日本の再生医療、iPS技術は世界の最先端にあり、周辺産業への波及も含め大きな経済効果が期待されるが、技術の進歩に法制度が追いついていないとして、薬事承認の早期化の重要性を訴えた。さらに、関西は医療特区を核に「新たな健康・医療ビジネスが世界一生まれ続ける街」としてアジアのハブを目指すと述べた。

続いて、同研究プロジェクトの研究主幹である森川博之・東京大学先端科学技術研究センター教授が今回の研究目的や成果を報告した。ビッグデータ利活用による「データ駆動型医療」が進めば、エビデンスに基づく予防・先制的なプロアクティブ型の個人化医療の時代となり、個人医療情報のポータル化、日常的な生体情報の蓄積などのモバイルヘルスビジネスの普及によって、私たちのQOL(生活の質)が格段に向上するという未来像を示した。

■ 医療ビッグデータ利活用による未来像と課題

パネルディスカッションでは、浅野薫・シスメックス取締役上席執行役員研究開発担当兼中央研究所長、澤田拓子・塩野義製薬専務執行役員グローバル医薬開発本部長、鈴木正朝・新潟大学法学部教授、川渕孝一・東京医科歯科大学大学院医療経済学分野教授を迎え、森川研究主幹の進行のもと、ビッグデータの利活用がもたらす医療・健康サービスの未来像について活発な討議が行われた。

浅野氏は、ビッグデータの活用によって、一般の基準値ではなく、生体情報・生活習慣・地域特性等を加味した個人ごとの基準値に基づく個別最適医療や、疾病を予測する精度の高いバイオマーカーの開発を目指したいと述べた。

澤田氏は、バイオビッグデータと臨床ビッグデータを結びつけて標的分子を特定することにより、創薬の期間短縮と効率化が実現でき、より効果的な薬となっていると説明した。これを加速するためには、医療データベースの構築とともに、リスクと効用のバランスを取った個人情報の取り扱いに関するルールづくりが重要と強調した。

鈴木氏は、日本の情報通信技術の高さを活かし、わが国がハブとなって世界中のデータを集め、QOLを高める医療を伸ばして世界に輸出することで経済発展につなげるべきだと述べた。そして、医療データがルール未整備の近隣諸国などに流出するのを防ぎ、かつ世界中のデータを集めるために、個人情報保護法制の見直し、特にグローバルなルールの調和と法執行協力体制の整備が必要であると訴えた。

川渕氏は、病院によって治癒率や入院日数などに大きなばらつきがあるが、欧米と違ってわが国ではそれらのデータが開示されておらず比較ができないと指摘した。個人の医療・健診にかかわる時系列データや病院側のデータを集積して「見える化」を進め、医療の質の向上と効率化を図るとともに、質の高い医療には経済的インセンティブを与える「Pay for Performance」の仕組みを実現すべきだと述べた。

シンポジウムの詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】

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