Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年11月6日 No.3199  大学改革への取り組みと産業界への期待を聞く -松本京都大学前総長から/教育問題委員会

経団連は10月6日、東京・大手町の経団連会館で教育問題委員会(中西宏明委員長、渡邉光一郎共同委員長)を開催した。京都大学前総長の松本紘氏から、大学改革の取り組みと産業界への期待について説明を聞くとともに懇談した。

■ 大学改革の背景

松本氏はまず、大学の現状について、「国公私立大学の数は10年前に709校だったが、現在は775校に増加している。他方、1992年に204万人だった18歳人口は、2013年に123万人にまで激減した。大学数が増える一方で少子化が進んでおり、学生の質の低下は覚悟しなければならない」と指摘した。

また、これまでの大学をめぐる変化として、(1)91年に文部科学省が設置基準を大綱化したことの結果として、ほとんどの大学が教養部を廃止したこと(2)04年以降国立大学が法人化されたこと(3)大学の機能分化に向けた大学改革が求められていること――などを挙げた。

■ 京都大学の教育改革

続いて松本氏は、大学における人材育成について、「大学における人材育成は、人格の根幹を鍛えるものであるべきであり、社会に『自鍛自恃(じたんじじ)』ができる人を送り出したい。米国デューク大学のキャシー・デビッドソン教授によれば、11年に入学した小学生の65%は今はまだ存在しない職業に就くと推測されており、さまざまな環境に適応できる人材をどう輩出するかが課題となる」と指摘。京都大学の具体的な取り組みとして、国際的で総合的なプロジェクト推進能力・マネジメント力を有した世界的リーダーの育成を目指す大学院「思修館」を創設したことを紹介した。

また、松本氏は、「思修館は5年間のプログラムのうち、初めの2年間で自分の専門分野を学び、3年次は文理問わず専門分野以外の科目を必修としている。また、4年次は大学の費用で国際機関等に派遣し、5年次には自ら資金調達して一定の課題を解決するプロジェクトを遂行させる」とその特色を説明した。

さらに、教養科目を体系的に履修させるための制度改革や、高校までの学習歴や活動歴を重視する「高大接続型京大方式特色入試」を16年度から導入し、将来的には半数近くの学生を新方式で選抜することについても言及した。

■ 大学の研究環境と産業界への期待

松本氏は日本の大学の研究力ランキングが低下している要因として、大学の研究環境について「01年と12年を比べると、長期の時間をかけて実施する研究、基盤的な研究、挑戦的な研究が減少し、短期的に成果が出せる研究、一時的な流行を追った研究が増えている」ことを指摘。また、インターネットのセキュリティーに素数研究が役立っていることや、ノーベル化学賞を受賞した下村脩氏が発見したGFP(緑色蛍光タンパク質)の例を挙げ、「研究時点ではどう役に立つか不明なことが役に立つということがあり、基礎を枯らしてはいけない。大学の知と産業が求めるイノベーションとは異なることを理解いただきたい」と強調した。

【社会広報本部】