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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年11月6日 No.3199 「サイエンス経済時代のイノベーション戦略」 -元橋東京大学大学院教授が講演/産業技術委員会企画部会

経団連の産業技術委員会企画部会(須藤亮部会長)は10月21日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、元橋一之東京大学大学院工学系研究科教授から「サイエンス経済時代のイノベーション戦略」と題する講演を聞き、意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

■ サイエンス経済時代の到来

日本の国際競争力の低下が叫ばれて久しい。今後は、少子化や労働時間の減少が進むと考えられることから、いわゆる第三の矢としてのイノベーションを用いて経済成長を目指すことが不可欠となる。

競争力の源泉も時代とともに変化してきている。かつて競争力の源泉であった工業技術がコモディティー化し、従来型の工業経済モデル(注1)による経済成長を追求することは難しくなっている。そこで、自然科学に関する科学的知見に加え、経済やビジネスに関する社会現象を科学的に究明し、それを経済価値化していく活動をベースとした経済成長の追求が重要となる。これを私は「サイエンス経済モデル」と称している。

■ サイエンス経済時代のイノベーション戦略

サイエンス経済時代の到来に伴って、イノベーションのプロセスも変化する。改良技術に基づき、新たな製品をつくり大量生産する従来型のモデルから、IT、バイオ・ナノテクノロジーなどの科学的知見に基づいた技術の塊を、ユーザーや社会とのインタラクションを行うビジネスイノベーションによって製品化するというモデルへと変化している。

後者のイノベーションは、従来のように各企業が自前で行うことが難しく、オープンイノベーションや産学官連携を進めることがより重要となる。

そうしたイノベーションの具体例としては、コマツが開発したKOMTRAX(注2)やアパレル分野におけるユニクロと東レの連携などが挙げられる。いずれも広く深いサイエンスベースに裏打ちされた技術と顧客との連携とを組み合わせることによって、持続的なイノベーションを起こした好例といえる。

■ 産業競争力の強化に向けた今後の対応策

いくつかの大企業では取り組みが始められているが、(1)自前によるイノベーションから水平的分業などによるオープンイノベーションへの移行により市場の変化に対して柔軟に対応すること(2)科学的知見とダイナミックに変化する顧客ニーズを結びつける「イノベーション戦略部門」にあたるものをつくること――などによって、サイエンス経済に向けたイノベーション戦略を再構築していくことが重要である。

(注1)工業経済モデル=18世紀後半から19世紀にイギリスで始まった、産業革命に端を発する工業技術が労働生産性をドライブする経済社会システム

(注2)KOMTRAX=建設機械の情報を遠隔で確認するためのシステム。稼働状況、コンディションなどの情報を遠隔で集め、適宜保守・管理を行うとともに、集められたデータをもとに各顧客に部品交換の目安を知らせる、製品の需要動向を予測するなどの新たな取り組みを行う

【産業技術本部】

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